わが国で、宇宙資源法が成立したのに触れました。で、その時に、米国の法制度等について正確に調べなかったので、反省して、ちょっとメモしたいと思います。
この問題については、杉浦卓弥「宇宙資源開発の合法性をめぐる国際宇宙法の認識枠組み -アメリカ「宇宙資源探査利用法」(2015年)を契機として」という論文があります。
それ以外にも、西村高等法務研究所 「宇宙資源開発に関する法研究会報告書」があります。
まずは、「宇宙資源探査利用法」の翻訳です。というか、青木節子ほか編集『宇宙六法』(信山社,2019 年)91 頁(JAXA 訳)に出ているそうですが、DeepLで訳します。
後述する「米国商業宇宙打上げ競争力法」のタイトル4による改正部分が「宇宙資源探査利用法」と呼ばれます。
第513章 宇宙資源の商業的探査と利用
51301.定義
51302.商業的探査及び商業的回収
51303.小惑星資源及び宇宙資源の権利
編集上の注意
修正事項
2015-Pub. L. 114-90, title IV, §402(a), Nov.25, 2015, 129 Stat. 720, Chapter 513 and item 51301 to 51303を追加した。
§51301. 定義
本章では
(1)小惑星資源(asteroid resources)-「小惑星資源」とは、単一の小惑星上またはその内部に存在する宇宙資源を意味します。
(2) 宇宙資源
(A) 一般的に「宇宙資源」とは、宇宙空間に存在する生物由来の資源をいう。
(B)含有物 -「宇宙資源」という用語は、水および鉱物を含む。
(3) 米国市民-「米国市民」という用語は、第50902条の「米国の市民」という用語に与えられた意味を持つ。
(Added Pub. L. 114-90, title IV, §402(a), Nov. 25, 2015, 129 Stat. 721.)
§51302. 商業的探査と商業的回収
(a)大統領は、適切な連邦機関を通じて、以下のことを行う。
(1) 米国市民による宇宙資源の商業的探査と商業的回収を促進する。
(2) 米国の国際的な義務に沿って、宇宙資源の商業的探査および商業的回収のための経済的に実行可能で安全かつ安定した産業を米国内で発展させることに対する政府の障壁を阻止する。
(3) 米国の国際的な義務に従い、連邦政府の認可と継続的な監督のもと、有害な干渉を受けずに宇宙資源の商業探査および商業回収に従事する米国市民の権利を促進する。
(b) 報告書-本節制定日から180日以内に、大統領は、米国市民による宇宙資源の商業探査および商業回収に関する報告書を議会に提出しなければならない。
米国の国際的な義務を果たすために必要な権限(連邦政府による認可と継続的な監督を含む)。
(2) パラグラフ(1)に記載されている活動のための連邦政府機関間の責任の配分に関する提言。
(Added Pub. L. 114-90, title IV, §402(a), Nov.25, 2015, 129 Stat. 721.)
§51303. 小惑星資源および宇宙資源の権利
本章に基づいて小惑星資源または宇宙資源の商業的回収に従事する米国市民は、米国の国際的義務を含む適用される法律に従って、得られた小惑星資源または宇宙資源を所有、所有、輸送、使用、および販売することを含む、得られた小惑星資源または宇宙資源に対する権利を有する。
大統領令 No.13914宇宙資源の回収と利用のための国際的な支援の奨励
Ex. Ord. No.13914, Apr. 6, 2020, 85 F.R. 20381に規定されている。
米国商業宇宙打上げ競争力法(Public Law 114-90)のタイトルIV[本章を制定]を含む、憲法およびアメリカ合衆国の法律によって大統領である私に与えられた権限により、ここに以下のように命令する。
Section 1. 政策について
2017年12月11日のSpace Policy Directive-1(Reinvigorating America’s Human Space Exploration Program)[82 F.R. 59501]では、米国が主導する “革新的で持続可能なプログラム “に商業パートナーが参加し、”長期的な探査と利用のための月への人類の帰還を主導し、その後、火星やその他の目的地への有人ミッションを行う “と規定している。月、火星、その他の天体の長期的な探査と科学的発見を成功させるためには、宇宙空間にある水や特定の鉱物などの資源を回収して利用するための商業団体とのパートナーシップが必要となる。
しかし、月の資源を商業的に回収・利用する権利の拡大を含め、宇宙資源を回収・利用する権利が不明確なため、一部の商業団体はこの事業への参加を躊躇している。1979年に締結された「月および他の天体における国家の活動を統制する協定」(以下、「月協定」)が、宇宙資源の回収・利用に関する国家の法的枠組みを確立しているかどうかについての疑問が、この不確実性を深めている。特に、米国は月協定に署名も批准もしていない。実際、月協定を批准している国は、国連宇宙空間平和利用委員会の加盟国95カ国のうち17カ国を含む18カ国に過ぎない。さらに、月協定と、米国をはじめとする108カ国が加盟している「月及び他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家の活動を支配する原則に関する条約」(1967年)との間の相違点も、宇宙資源を回収し利用する権利の不確実性につながっている。
アメリカ人は、適用される法律に沿って、宇宙空間の資源を商業的に探査、回収、利用する権利を持つべきである。宇宙空間は、法的にも物理的にも人間の活動に固有の領域であり、米国はこれをグローバル・コモンズとは考えていない。したがって、適用される法律に沿って、宇宙空間における資源の公私の回収および利用に対する国際的な支援を奨励することは、米国の政策とする。
Sec.2. 月協定。
米国は、月協定の当事者ではない。また、米国は月協定を、月、火星、その他の天体の長期的な探査、科学的発見、利用への商業的参加の促進に関して国家を指導するための効果的かつ必要な手段とは考えていない。したがって、国務長官は、他国または国際機関が月協定を慣習国際法を反映または表現したものとして扱おうとするいかなる試みにも反対するものとする。
Sec.3. 宇宙資源の回収・利用への国際的支援の促進
国務長官は、商務長官、運輸長官、米国航空宇宙局長官、および国務長官が適切と判断するその他の行政部門・機関の長と協議の上、本命令の第1項に定める方針に沿って、宇宙空間における資源の回収と利用に対する官民の支援を国際的に奨励するために、あらゆる適切な行動をとらなければならない。本項を実行するにあたり、国務長官は、宇宙資源の公私の回収・利用のための安全で持続可能な運用に関して、外国との共同声明や二国間・多国間の取り決めを交渉することを求めるものとする。
Sec.4. 宇宙資源の回収・利用に対する国際的な支援を促すための取り組みについての報告
。本命令の日付[2020年4月6日]から180日以内に、国務長官は、国家宇宙評議会議長および国家安全保障問題担当大統領補佐官を通じて、本命令の第3項に基づいて実施された活動について大統領に報告する。
Sec.5. 一般規定。
(a) 本命令のいかなる部分も、次の事項を損なう、またはその他の形で影響を与えると解釈してはならない。
(i) 法律によって行政省庁またはその長に与えられた権限。
(ii) 予算、行政、または立法案に関連する行政管理予算局の局長の機能。
(b) 本命令は、適用される法律に沿って、予算の有無に応じて実施されるものとする。
(c) 本命令は、米国、その省庁、機関、事業体、その役員、従業員、代理人、またはその他の者に対して、当事者が法律上または衡平法上の強制力を持つ、実体的または手続き上のいかなる権利または利益も創出することを意図したものではなく、またそのようなものでもない。
国際法と国内法の調整関係については、上の論文等を参照いただきたいと思います。
感覚としては
国内法的には、所有権があるよとなったとしても、国際的に調整されなければ、結局、
それって、勝手にいっているだけだよね
という話になりそうです。国際法という次元と国内法という次元が、月というポイントでクロスしているわけですが、ドクターフーのカーディフよろしく、いろいろと問題が起きてくることになります。
ちなみに、国内の資源の所有を認めているのは、アメリカ、ルクセンブルグ、アラブ首長国連邦(UAE) に次ぐ4カ国目だそうです。“Japan fourth country in the world to pass space resources law”
でもって、世界的には、宇宙条約(OST)との関係は、どうなるのということなのですが、国会議事録検索でいくと 「宇宙資源」で検索すると
1 第204回国会 衆議院 議院運営委員会 第45号 令和3年6月10日
2 第203回国会 衆議院 本会議 第9号 令和2年12月4日
3 第198回国会 衆議院 予算委員会第三分科会 第1号 平成31年2月27日
4 第196回国会 参議院 国際経済・外交に関する調査会 第5号 平成30年4月18日 こ
5 第192回国会 参議院 本会議 第9号 平成28年11月9日
6 第192回国会 参議院 内閣委員会 第4号 平成28年11月8日
7 第151回国会 衆議院 総務委員会 第12号 平成13年4月10日
8 第203回国会 衆議院 追録
ということです。今回の宇宙資源法については、国際法との関係についての議論は、(採決された日の議論が公開されれのを待ちたいのですが)今のところ公開された情報の限りでは、意識してはなされていないようです。
あと、この我が国の宇宙資源法の制定は、国際的にインパクトはあったみたいですね。それが一番、重要な感じがします。英語で、ここまでの経緯をまとめてもいいかもしれませんね。
おまけです。
「米国商業宇宙打上げ競争力法(U.S. Commercial Space Launch Competitiveness Act of 2015)」の目次をみておきます。あと、興味をひいた条文を訳します。
114th Congress Public Law 90] [米国政府出版局より] [[Page 703]] 。
U.S. COMMERCIAL SPACE LAUNCH COMPETITIVENESS ACT [[Page 129 STAT.704]].
Public Law 114-90 114th Congress An Act To facilitate a pro-growth environment for the developing commercial space industry by encouraging private sector investment and creating more stable and predictable regulatory conditions, and for other purposes.
<<NOTE: 2015年11月25日 [H.R.2262]>> 議会を構成するアメリカ合衆国の上院と下院によって制定される。
<<NOTE: U.S. Commercial Space Launch Competitiveness Act.>> SECTION 1. SHORT TITLE; TABLE OF CONTENTS; REFERENCES.
(a) <<NOTE: 51 USC 10101 note.>>
Short Title.–この法律は、`U.S. Commercial Space Launch Competitiveness Act”として引用することができる。
(b) Table of Contents.–この法律の目次は以下の通りである。
Sec.1. 短いタイトル、目次、参考文献。
タイトル I–民間宇宙開発競争力と起業家精神の促進
Sec. 101. 短いタイトル
Sec.102. 国際的なロケット競争力
(a) 議会の意向–有効かつ合理的な最大予想損失額を一貫して算出するために、米国コード第51条第50914項に基づく請求による最大予想損失額の算出に使用される方法を、有効なリスク・プロファイル・アプローチで更新することは公共の利益にかなうものである。
(b) 実施
(1) 合衆国法典第51条第50914項に基づく請求による最大予想損失額を算出するための方法を評価し、必要であればその方法を更新する計画を策定すること。
(2) (1)の評価または計画策定において、(A)連邦政府が意図した以上のコストにさらされないようにし、打上げ会社が必要以上の保険に加入する必要がないようにすること、(B)更新された方法論を実施することで業界と政府の両方にかかるコストの影響を考慮すること、(3)評価および計画を上院の商務・科学・運輸委員会および下院の科学・宇宙・技術委員会に提出すること。
(c) 独立評価。
会計検査院は、上院の商業・科学・運輸委員会および下院の科学・宇宙・技術委員会に対し、
(1)交通長官が(b)項に基づいて評価した分析と結論、および計画についての評価を提出する。
(2) (1)項に記載された計画の中で長官が提案した実施スケジュール
(3) (1)項に記載された計画の実施に対する適合性; および
(4) (1)項に記載された計画を実施するため、またはその他本項の目的を達成するために必要な更なる措置。
(d) 発射責任の延長
-セクション50915(f)<<注:51 USC 50915.>>は、「2016年12月31日」を削除し、「2025年9月30日」を挿入することで修正される。
Sec.103. 宇宙飛行参加者への補償
Sec.104. 打上げライセンスの柔軟性
Sec.105. ライセンス報告書
Sec.106. 連邦政府の管轄
SEC. 106. 連邦政府の管轄権 セクション50914 <<NOTE: 51 USC 50914.>>>は、最後に以下のように追加することで改正される。 このライセンスに基づいて行われた活動に起因する死亡、身体傷害、財産的損害または損失に関する第三者または宇宙飛行参加者からの請求は、連邦裁判所が独占的に管轄するものとする」。
Sec.107. クロスウェイバー
第50914条(b)(1)は次のように修正されます。
本章に基づいて発行または譲渡された打上げまたは再突入のライセンスには、ライセンス取得者または譲渡人が、打上げサービスまたは再突入サービスに関わる関係者との間で請求権の相互放棄を行うことを求める条項が含まれていなければならない。この条項では、放棄の各当事者が、該当するライセンスに基づいて行われた活動に起因する自己または自己の従業員の人身事故、死亡事故、物的損害または損失に対して責任を負うことに同意する。
この段落では、「適用対象者」とは、“(i) ライセンシーまたは譲受人の請負業者、下請け業者および顧客、“(ii) 顧客の請負業者および下請け業者、“(iii) 宇宙飛行参加者、を意味する。
(C) (B)号の(iii)項は2025年9月30日に効力を失う。
Sec.108. 宇宙権限
Sec.109. 軌道交通管理
Sec.110. 宇宙監視・状況認識データ
Sec.111. 合意基準と特定の安全規制要件の延長
Sec.112. 政府の宇宙飛行士
Sec.113. 商業宇宙打ち上げ活動の合理化
Sec.114. 国際宇宙ステーションの運用と利用
Sec.115. 州の商業打上げ施設
Sec.116. 宇宙支援機の研究
Sec.117. 宇宙打ち上げシステムの更新
タイトル II–商業リモートセンシング
Sec. 201年次報告書
Sec.202. 法定更新報告書
タイトル III–宇宙商業局(OFFICE OF SPACE COMMERCE)
Sec.301. 宇宙商業化局(OFFICE OF SPACE COMMERCIALIZATION)の名称変更
Sec.302. 宇宙商業局の機能
タイトルⅣ 宇宙資源探索および利用(RENAMING OF OFFICE OF SPACE COMMERCIALIZATION.)
Sec. 401. 略称。
Sec.402. タイトル 51 の修正(TITLE 51 AMENDMENT.)
(a) 全般-第V副題 <<NOTE: 51 USC prec. 51301.>>は、最後に以下を追加することによって修正される。 [[ページ 129 STAT.721]] 。
第5章–宇宙資源の商業的探究と利用」
(Sec.51301. 定義」を参照。
51302. 商業的探査および商業的回収
51303. 小惑星資源および宇宙資源の権利。
Sec.403.域外主権(EXTRATERRITORIAL SOVEREIGNTY)の放棄
本法の制定により、米国はそれによって、いかなる天体に対しても主権または主権的または排他的な権利または管轄権(jurisdiction)、あるいは所有権を主張するものではないというのが議会の見解である。
ということで、やっぱり法文は、オリジナルをじっくりみてみるのにしくはなし、ということですね。
域外管轄権の放棄の明言がなされているわけです。上の「カーディフ」問題よろしく、国内法の次元でさだめた規定が国際的な観点からどのような効果をもつものと考えられていたのかというのは、おおきな問題になるわけですし、米国では、いわゆる域外適用について、議会の意図がきわめて重視されるのは、いうまでもないことです。
域外適用について制定法が何ら明確な指示を与えていない場合、域外適用なされない
Morrison v.Nat’l Australia Banking Ltd,.130 S Ct 2869,2878 (2010)ということです。
アカデミックな興味からいうと、立法の適用がある(権利義務が発生する)という話と執行の効果があるというのは、また別の話があって、執行の効果については、上のようなことがいえるとしても、法の適用とはまた別のような気もするのですが、それはさて置くとしても、上の403条でEXTRATERRITORIAL SOVEREIGNTYの放棄というのは、興味深いです。立法の適用の際には、EXTRATERRITORIAL legislative jurisdictionという表現をするので、exclusiveであるというような考え方はしませんよ、ということかと思います。個人的には、興味深かったりします。
ということで、 わが国で、宇宙資源法の成立したのに触れたエントリを正確に修正します。まあ、米国の「宇宙資源探査利用法」が、「米国商業宇宙打上げ競争力法」のタイトル4による改正部分をいうということがわかったので、修正しておきます。