アルテミス計画というのは、2024年までに人類を再び月面に送る計画になります。Gigazineの記事は、こちら。
私たちの世代では、みんなが憧れたアポロ計画があるわけですが、アポロの双子の女神アルテミスにちなんで名付けられた計画です。なので、女性宇宙飛行士が、月面着陸をする予定です。
アルテミスは、狩猟と貞潔の女神だそうです。
でもって、法的な話としては、NASAというか、米国が、2020年5月15日にアルテミス協定(Artemis Accords)を公表していています。
Techcrunchは、こちら Gigazineは、こちら。
で、宇宙法のかいわいでは、久しぶりに(?)、新しいネタが投入されたという感じかとと思います。マギル大学の航空宇宙法機構が、webinarをやりましたので、それを聞きました。
まずは、Accords(協定と訳されていますが、微妙)です。
あとで詳しくみていきますが、法的には、実質的な条約となるのかどうか、という問題あります。条約というのは、条約法条約(条約法に関するウィーン条約)によると、
国の間において文書の形式により締結され、国際法によつて規律される国際的な合意(単一の文書によるものであるか関連する二以上の文書によるものであるかを問わず、また、名称のいかんを問わない。)をいう
とされます(同条約2条1(a))。これは、名称をとわないので、アルテミス・アコードといっていてもそれが法的な拘束力をゆうするものとして国家相だで、合意されれば、条約となります。
が、どうも、米国は、これを条約とはしないで、今後の月開発・火星開発をしようと考えているような評価がなされているようです。
なので、アルテミス・アコードの文脈と、現在の提案をみていくことになります。
でもって、法的な記事としては、Borgen教授の「アルテミスアコード:宇宙法にとっての小さな第一歩」(The Artemis Accords: One Small Step for Space Law?)をもとに分析していきます。
まずは、2020年4月6日のトランプ大統領の大統領令(「宇宙資源の回収および利用の国際的支援推進のための大統領令」)をみていきます。
この報道は、こちら(価格技術振興機構研究開発戦略センター、テッククランチ)
(機械の助けありですが)翻訳します。
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憲法および米国商業宇宙打上げ競争力法(公法114-90)のタイトルIVを含むアメリカ合衆国の法律により、大統領として与えられた権限に基づき、ここに次のように命じる。
1条 方針
2017年12月11日のSpace Policy Directive-1(Reinvigorating America’s Human Space Exploration Program)は、商業パートナーが “革新的で持続可能なプログラム “に参加することを規定し、それは、米国が主導し、”長期的な探査と利用のための月への人類の帰還をリードし、その後に火星やその他の目的地への人類ミッションを行う “ためにするものです。月、火星、その他の天体の長期探査と科学的発見を成功させるためには、水や特定の鉱物などの資源を宇宙空間で回収・利用するための商業主体とのパートナーシップが必要となる。
しかし、月面資源の商業的な回収・利用権の拡大を含む宇宙資源の回収・利用権は、不確実であるので、商業主体には、この事業に参加することを躊躇しているものもいます。また、1979年の「月及びその他の天体に関する国家の活動を管理する協定」(以下、「月協定」)が、宇宙資源の回収・利用に関する国家の法的枠組みを確立しているのかという疑問は、特に米国が月協定に署名も批准もしていないことから、その不確実性を深めています。実際、月協定を批准しているのは、国連宇宙平和利用委員会の加盟国95カ国のうち、わずか17カ国を含む18カ国にすぎません。さらに、月協定と、米国を含む108カ国が加盟している1967年の「月及びその他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家の活動を支配する原則に関する条約」(筆者注 宇宙条約) との違いも、宇宙資源を回収し利用する権利の不確実性の一因となっています。
アメリカ人は、適用される法律に沿って、宇宙空間における資源の商業的探査、回収、利用に従事する権利を持つべきである。宇宙空間は、法的にも物理的にも人間の活動の固有の領域であり、米国は宇宙空間をグローバル・コモンズとは考えていない。したがって、適用法に沿って、宇宙空間における資源の公私の回収及び利用に対する国際的な支援を奨励することが、 米国の政策である。
2条 月協定
米国は月面協定の当事者ではない。さらに、米国は、月、火星、または他の天体の長期的な探査、科学的発見、利用への商業的参加の促進に関して、月協定が各国を指導するための有効かつ必要な手段であるとは考えていない。したがって、国務長官は、他のいかなる国家や国際機関が月協定を慣習的な国際法を反映しているか、そうでなければ表現しているかのように扱おうとする試みに異議を唱えるものとする。
3条 宇宙資源の回収及び利用に対する国際的な支援の奨励。
国務長官は、商務長官、運輸長官、航空宇宙局長官、その他国務長官が適切であると判断した執行部局の長と協議の上、本令 1 条に定める方針に沿って、宇宙空間における資源の回収と利用に対する官民の国際的な支援を奨励するためのあらゆる適切な措置を講じるものとする。この条を遂行するにあたり、国務長官は、宇宙資源の公的及び民間の回収及び利用のための安全で持続可能な運用に関して、外国との共同声明及び二国間及び多国間の取り決めについて交渉するよう努めるものとする。
4条 宇宙資源の回収及び利用のための国際的な支援を奨励する努力に関する報告書。国務長官は、この命令の日から 180 日以内に、国家宇宙会議の議長及び国家安全保障問題担当大統領補佐官を通じて、この命令の第 3 項の下で実施された活動について大統領に報告するものとする。
5条 総則
(a) 本令のいかなる規定も、次の事項を損なうものと解釈されてはならない。
(i) 法律によって執行部局若しくは機関又はその長に付与された権限。
(ii) 予算、行政、立法案に関する管理予算局長の機能。
(b) この命令は、適用される法律と一致し、かつ、予算の利用可能性を条件として実施されるものとする。
(c) 本命令は、いかなる当事者も、米国、その部局、機関、または団体、その役員、役員、職員、職員に対して、法律上または衡平法上の強制力を持つ、実質的または手続き上のいかなる権利または利益も創出することを意図したものではなく、また、創出することを意図したものでもない。
ドナルド・J・トランプ
ホワイトハウス
2020年4月6日
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でもって法的には、このような米国の態度が、宇宙条約2条(JAXAが翻訳を準備しています)の
「月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。」
と矛盾するのではないか、という議論が起きています。
なお、この部分に関しては、月の土地の所有権を販売するビジネスは、有効か、という議論が小塚ほか「宇宙ビジネスのための宇宙法入門」に紹介されていたりします。
Borgen教授によると、宇宙条約2条は、主権の行使の対象としての取得が禁止されているだけなので、商業的な資源採掘を禁止するものではないと解されているとのことです。
この理屈は、国連海洋法条約で、商業的な漁業が許容されているのと同様だそうです(116条 公開における漁業の権利)。
その一方で、宇宙条約6条の国家責任集中原則があるので、米国の会社による採掘は、すべて米国の行為となるのではないか、という反論がありたつわけです。
この点については、米国の政府見解は、従前から、明確な立場を示していなかったということになります。
月協定の11条3項は、
3 月の表面又は地下若しくはこれらの一部又は本来の場所にある天然資源は、いかなる国家、政府間国際機関、非政府間国際機関、国家機関又は非政府団体若しくは自然人の所有にも帰属しない。月の表面又は表面下に対する要員、宇宙機、装備、施設、基地及び設備、及びこれらの表面又は地下に接続する構造物を配置することは、月の表面又は地下若しくは月のいずれかの地域に対する所有権を生じさせるものではない。この規定は本条の5に述べられている国際レジームを侵害するものではない。
としています。これは、正面から、ぶつかるので、米国は
国務長官は、他のいかなる国家や国際機関が月協定を慣習的な国際法を反映しているか、そうでなければ表現しているかのように扱おうとする試みに異議を唱えるものとする。
としています。