NHK BS デジタルウクライナ-中立法と宇宙関係の民間会社

ロシアとウクライナとの間の武力紛争に関して、「情報」が武力紛争に実際に果たす役割が明らかにされたというのが、重要であろうと思います。特に、「情報」の果たす役割についてNHKが、精力的に報道していて、6月末の二つの番組は、とても興味深かったです。

特に、この「情報」に関して、「宇宙」の果たす役割と「サイバー」の果たす役割とに焦点があたっていました。

「宇宙」に焦点をあてた番組は、「BS1スペシャル BS1SP デジタル・ウクライナ 衛星が変えた戦争」(初回6月19日放送)であり、「サイバー」に焦点をあてたのが「拡大する“見えない戦場” ウクライナ・サイバー戦の実態」(クローズアップ現代)(WEB特集として「世界に飛び火 “サイバー市民戦争” パンドラの箱は開かれた」)です。

9月には、2018年にまとめた話(宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア)の続編として宇宙とサイバーの話を講演するので、その後の宇宙とサイバーセキュリティの発展の話をまとめる必要があるかと思います。今のところ、追加事項としては、IoTとしての宇宙機の安全性と、ロシア・ウクライナ武力紛争における宇宙の果たす役割のケーススタディということになるかと思います。このロシア・ウクライナ武力紛争における宇宙の果たす役割のケーススタディをまとめるのに、「BS1スペシャル BS1SP デジタル・ウクライナ 衛星が変えた戦争」が役にたつので、以下、内容を備忘するためにまとめていきます。

イントロ(3分30秒まで)

ウクライナの闘いを支えているのが衛星であるという認識です。

1 衛星画像による情報(3分30秒から)

小泉悠先生のコメントで、Maxarテクノロジーズの公海のデータベースが紹介されています。3重のフェンスが、あれば、核弾薬庫があるなとわかるとか、冷戦時代であれば、超極秘情報が簡単にアクセスできるとコメントされています。

去年の11月から大規模な部隊を集結させていることがわかったこと、侵攻の意図があると分析されていたこと、アメリカが衛星画像で分析したことにより標的、時刻も正確に分析していたこと、が紹介されました。また、侵攻がはじまってからも正確な情報を提供していたことが紹介されています。

Maxarテクノロジーズが紹介されました。売りは、解像度で、30センチで、飛行機であれば、モデルまで分析できること、幅広く捉えることによってロシアの戦車が列をなしたことを伝えたこと、衛星画像のニュース部門を開始したこと、が紹介されています。

ウクライナ政府は、世界の民間会社に協力をもとめたことが紹介されました。

2 情報通信当局のインタビュー(10分から)

情報通信当局のトップのコメントがなされました。

また、その支援の詳細として、アルゼンチンのサテロジック社が、その撮影の権限をウクライナ政府に提供していることが明らかにされています。

衛星の技術は、世界のすべての国々のためにあるのです

ということだそうです。

小泉先生の分析で、キエフから撤退した事情が分析されています。上からみる画像だけでも、頻繁に更新されていれば、自分ではみえないロシア軍の動きがわかるという特徴があるという話をしています。

大型揚陸艦の攻撃については、位置を正確に把握したのがこの作戦を支えていたこと、日々の軍事活動を支えている、衛星は、その活動の背骨のひとつを支えているという話がされています。

3 商業衛星の時代(15分ころ)

衛星の驚異的な小型化が紹介されています。圧倒的な低いコストで衛星が打ち上げられていること、海水の温度分布、二酸化炭素の量なども把握できるようになっていますとされます。

ジェフリー・ルイス(ミドルベリー国際大学院モントレー校教授)は、農業は、衛星からの情報に依存していること、衛星の情報は生活に溶け込んでいること、驚くべき自体である、というコメントをしています

4 戦場の霧を晴らした衛星(18分ころ)

2月では、天気の関係で、ロシア軍の動きは、直接にはみえませんでした。まさに雲の陰に隠れていたのです。SAR衛星がつかえれば、もっとみえたはずであるという小泉先生のコメントがなされ、雲に隠れたところがみえていることがふれられています。

SAR衛星(Synthetic Aperture Radar合成開口レーダー )の説明がなされました。マイクロ波での反射なので、光の反射をみる一般の衛星とはことなり、天気に左右されないこと、夜でも情報取得できること、という特徴があります。

リモート・センシング技術センターのサイトですとこちらです。パスコの衛星画像の説明はこちらです。「ウクライナが日本に求めるSAR衛星データとは? 雲に覆われた地表も丸裸にする技術に迫る」の記事。

また、ウクライナがSAR衛星が重要であるともとめたことが紹介されています。

さらに、人間の活動を調べることができるHawkEye360の技術が紹介されています。ロシア軍が、GPSを攪乱させるための妨害電波をだしていたことを観測していたことが紹介されています。

5 通信を守った衛星(24分ころから)

ロシアがウクライナのインフラを攻撃しようとしたこと、これに対して副首相が、イーロンマスクに対して助けをもとめてスターリンクの提供をもとめたこと、翌日には、スターリンクのアンテナが届けられたこと、戦地で積極的に活用がなされていること、クリミア半島の併合を経験したことによって通信の重要性をウクライナは、十分に経験していること、政府が、ニュースが偽であるかを確認する仕組みを作成し、それが役にたっていること、などが紹介されています。

スターリンク関係の記事ですと「ウクライナでも活躍する「スターリンク」は何がスゴイ?」、「マスク氏、第2世代「Starlink」衛星の概要を語る–重量は約5倍に」あたりがあります。

6 オープンソースインテリジェンス(35分ころ)

ロシアのブチャでの虐殺はフェイクであるというロシアの主張が矛盾であると指摘したこと、そのために衛星が極めて役に立っていること、市民団体(ベリングキャット)が、OSINT のために大きな役割を果たしていること、ロシアの攻撃によって破壊された建物が病院であることを明らかにしたこと、SNSでも、OSINTの動きが広がっていること、INTELCrab(JUstin Peden)が独自の分析をしている例であること、NASAのFIRMSで火災情報をもとにウクライナの状況を確認していること、Project Owlが立ち上がっていること、が紹介されています。

エンディング

宇宙を制するものが世界を制する、衛星の技術をどう倫理的に利用するのか、ということでエンディングです。

ということで、非常に勉強になりました。

民間企業と中立法との関わり

ということで、国際法関係についてふれておきます。

その戦争に参加していない国家が、交戦国にたいして中立の立場をとった場合には、中立国と交戦国との間は、中立法により規律されます。中立法は、中立国に対する義務と交戦国に対する義務によって構成されています。中立国は平時と異なる中立義務を交戦国にたいして負うことになります。この伝統的中立義務は、黙認、避止および防止の3種の義務により構成されています。

交戦国は、中立国の領域を侵害することは許されませんし、また、その中立国の領域を自らの利益になるように利用しては成りません。また、中立国としては、交戦国が、自国の領域を利用しておこなわれている場合には、それを了知した場合には、その利用を終了させるべき義務を負うことになります。

もっとも、このような中立義務は、民間企業に及ぶものではありません。「米国の適格中立性の概念-ロシアのウクライナ侵略行為に対する「中立性」の問題-戦時の法の概観とともに」もごらんください。

「ロシアのウクライナ侵略における宇宙の武力紛争法の論点」でもふれたところでありますが、ハーグ第 V 条約(陸戦中立条約)が、これらに直接関係します。

7条は

第七条 中立国ハ交戦者ノ一方又ハ他方ノ為ニスル兵器、弾薬其ノ他軍隊又ハ艦隊ノ用ニ供シ得ヘキ一切ノ物件ノ輸出又ハ通過ヲ防止スルヲ要セサルモノトス

としていて、

18条は

第18条 左ニ掲グル事項ハ第十七条ロ号ニ所謂交戦者ノ一方ノ利益ト為ルヘキ行為ト認メス

イ 交戦者ノ一方ニ供給ヲ為シ又ハ其ノ公債ニ応スルコト但シ供給者又ハ債主カ他方ノ交戦者ノ領土又ハ其ノ占領地ニ住居セス且供給品カ此等地方ヨリ来ラサルモノナルトキニ限ル

ロ 警察又ハ民政ニ関スル勤務ニ服スルコト

としています。宇宙関連については、この条項がそのまま適用されるのかという問題があるわけです。宇宙条約(OST)の第6条は、非政府の宇宙活動の認可と継続的な監督に関する国際的な責任と要件を国家に課していることから、その条項との関係が問題になります。

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