NHKさんのニュースで、「イスラエル 過激派の追跡技術をコロナ感染対策に再活用へ」と報道されています。
同じ技術に関して、「イスラエル、感染者らの通信データを傍受へ」という報道もあります(これは、3月の記事)。
新型コロナウイルス対策で位置情報をどこまで取得・利用できるか、という論点があるわけですが、その際に海外の議論を日本語で読むときに陥りやすい落とし穴について考えてみましょう。
海外の法制度においては、通信については、その「通信内容」と「通信の外形的データ」についての保護で、保護のレベルが違うという立ち付けになっている法域が多数です。
これに対する法的な制度も、いろいろな制度が準備されています。
例えば、保存通信の場合には、通信内容について法執行機関が、公共のプロバイダに対して取得する場合には、裁判所の発行する捜索令状で取得するとか、一方、外形的な事実(いつ、誰とだれが通信していたとか、IPアドレスとか)については、提出命令のようなより、発行の閾値が低い手段で提出されるとかになっています。
また、取得がリアルタイムかどうかで、区別されたりします。リアルタイムでの取得を一般的にいう用語は、観測(サーベイランス)で、通信内容についての取得は、傍受(インターセプト)、外形的な事実(通信データ)については、追跡(トレース)ということができるかと思います。
これらの用語の使い分けは一般論です。米国については、更に細かく分けられています。詳しくは、社会安全研究財団「「アメリカにおけるハイテク犯罪に対する捜査手段の法的側面」報告書「犯罪捜査におけるコンピュータ捜索・差押および電子的証拠の獲得」(司法省マニュアル)の翻訳とその解説」をご覧ください(分類と表については、52頁です、情報の格付けについては、57頁)。
ところがわが国では、この二つは一緒くたにされています。なので、通信データの取得についても「傍受」という用語をつかったりすることがありうるかもしれません。そのような場合は、誤解を招きかねません。いわゆる「ロスト・イン・トランスレーション」が発生します。注意しましょう。
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(追加)
イスラエルの動向については、「Bill Authorizing the Israeli Security Agency to Track Israelis to Combat Coronavirus Passes First Reading」が詳しいです。
ある人がコロナウイルスに感染したことが確認された場合、イスラエル保健省(MoH)は、過去14日間にその人の近くにいた人のデータをシャバックに提供するよう指示します。接触者はウイルスに感染した人と接触したことが特定され、通知されます。シャバックは、MoHに開示された情報を14日間のみ保持し、その後に作成された情報は直ちに削除することが求められている。
という仕組みだそうです。これは、上の区別でいえば、通信内容でもないので、「傍受」というのは、法律の用語としては、間違いです。ということで、NHKさんの今の見出しが正解ということになります。
これは、緊急事態権限でこれを政府が命じていたのですが、国会が法律で権限を認めようということになったのが、この法律(新型コロナウイルスの拡散を減少させるための国家的努力支援のための一般安全サービス認証法-機械翻訳です)です。