アルテミス計画と法(4)に引き続いて、Johnson准教授の分析に基づいて、アルテミスアコードの法的意義について検討したいと思います。
Johnson准教授によると、国連レベルにおける宇宙に関する諸条約、国際レベルにおける国際宇宙ステーション協定などによって諸国の権利・義務が明らかにされており、二国間の合意を通じて、アルテミスアコードが、宇宙法の発展をさせ続けることになるとしています。
発展される新たな規範としては、相互運用性(interopearability)、活動の衝突回避(Deconfliction of activities)、月資産の保護、軌道デブリおよび宇宙機廃棄があります。
相互運用性(interopearability)
国際宇宙法では、もともとは、相互運用性は求められておらず、それぞれ自由に宇宙を探索することが前提となっています。ただし、宇宙条約1条は、科学的調査における国際的協力を推奨しており、また、同9条は、協力及び相互援助の原則や、他のすべての当事国の対応する利益への妥当な考慮を前提としています。
また、いままでのアポロ・ソユーズのプロジェクトやアメリカ・ロシアの宇宙ステーションの企画などでなどで必要であり、いわば、当然であったものを、規範として明確化したものと位置づけられるとされています(Johnson准教授)。
活動の衝突回避(Deconfliction of activities)
活動の衝突回避の見解は、法的なイノベーションに思えます(Johnson准教授)。「安全地帯(safety zone)」を設けて、通知をなして、調整を図るという方法は、宇宙条約9条を実装するもので、妥当な考慮原則を強化していると位置づけられているのです。この「安全地帯」は、その場所の内部においてなされていることを損なうものではありません。
Johnson准教授によると、この「安全地帯」は、「立入禁止ゾーン(keep out zone)」とは、違うべきであるとされます。そもそも、宇宙条約12条によって
基地、施設、装備及び宇宙機は、相互主義に基づいて、条約の他の当事国の代表者に開放される
ことから、立入禁止を定めることはできませんし、また、今後、注意深く条項を定めることによって、ゾーンの財産権を主張されることがないようにしなければなりません。
月資産の保護(Protecting lunar heritage)
条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染、及び地球外物質の導入から生ずる地球環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする。
という規定が一つの根拠となるわけですが、その発展ということになります。
いままでの人類の歴史的場所や宇宙機が、保全をある程度求められることになります。
この点については、2011年にNASAが、月宇宙機の歴史的科学的価値の保護と保全についてのガイドラインを出しています。
あと、For All moonkindが、この保全を図っています。
軌道デブリおよび宇宙機廃棄
スペースデブリの提言は、LEO(低軌道)やGEO(静止軌道)においては、一般化しているといえますが、月に適用されるというのは、イノベーションとして位置づけられます。
NASAは、COPUOSの宇宙デブリ提言ガイドラインに反映された原則に合致した行動をとることに同意するとしており、このガイドラインは、拘束力を有しないものであるものの、これを遵守することが明言されたのは、それ自体で価値のあるイノベーションであるとされています。
Johnson准教授の結論
ということで、引用しておきます。
現在、宇宙法の様々な原則は、現在のところ曖昧なものが多く、主観的に解釈すれば様々な意味を持つことになります。その意味で、アルテミス計画を通して、国際法コミュニティは、月面活動の文脈でこれらの規定が実際にどのような意味を持つのかを知ることができるようになるでしょう。アルテミスが試みる技術的な偉業に加えて、宇宙空間のルールを洗練させ、開発することも、このプログラムの成果の一つとなるでしょう。これらのルールは、ミッションによって、また、活動を行う現場のアクターによって決定されます。その意味では、それらのアクターのニーズに対応し、プログラムを成功させるように調整されることになるでしょう。こうしたアクター主導の規範の影響力と妥当性を測定し、計量するのは国際法コミュニティであり、そのプロセスには何年もかかるだろう。宇宙法にとって未来は、忙しく興味深い時間となるでしょう。