ロシアのウクライナ侵略における宇宙の武力紛争法の論点

ロシアのウクライナ侵略における法的論点については、ブログで、ユスインベロの諸論点ジェノサイド条約との関係をみました。ところで、宇宙からの作戦が大きな意味をもつことが示唆されたというのも、特徴にも思えます。具体的には、

などの報道がなされています。また、前には、ロシアが、衛星破壊ミサイルで、時刻の古い人工衛星を破壊し、それによって国際宇宙ステーションの乗組員は、破壊的な衝突に備えて避難する必要があった(2021年11月)、という報道もなされました。

では、宇宙という作戦分野において武力紛争法がかかわる論点で、今回のウクライナ侵略に関して改めて注目がなされたものは、何かということについて、Timothy Goines中佐、 Jeremy Grunert少佐「ロシア・ウクライナ戦争とスペースドメイン」(The Russia-Ukraine War and the Space Domain)という論文をみていくことにします。

この論文(スペースドメイン論文といいます)では、

  • (1) 民間企業の紛争への関与が宇宙戦争法に及ぼす影響
  • (2) 国際宇宙ステーションに対するロシアの脅威
  • (3) ロシアの宇宙計画に対する制裁の潜在的影響。

についての考察がなされています。

ちょっと図示するとこんな感じかと思います。

 

(1) 民間企業の紛争への関与が宇宙戦争法に及ぼす影響

スペースドメイン論文では、もともと、ロシアがウクライナのインターネット接続を停止してしまうだろうと想定されたこと、それにもかかわらず、ウクライナのFederov副首相が、スターリンク社のイーロン・マスク氏に対してスターリンクの提供をもとめ、わずか2日後に、スターリンクのステーションが到着したこと、がふれられています。

スターリンクが軍事的利用のために利用されたということはわかりませんが、これに対して、ロシアの宇宙機関ロスコスモスのドミトリー・ロゴジン事務局長は、この動きを批判しています。ロゴジン氏は、「スターリンク」はもはや「純粋な民間衛星」とは言えないとし、ウクライナが武力紛争に関連する目的で使用する場合の衛星の位置づけを疑問視しています。米国は紛争当事者になりたくないと明確に表明しており、中立性の問題もあるのではないか、ということです。

スペースドメイン論文でも、前回分析したフォン・ハイネッグ教授の論考を引用しています。

民間企業による武器等の供与の問題

この問題の第一は、ハーグ第 V 条約 7 項で、中立国は私的行為者による「交戦国の一方または他方に代わって、武器、軍需品、または一般に軍隊や艦隊に利用できるもの」の輸出または輸送を阻止する必要はないことを定めている条文に関するものです。中立国は、民間企業による行為に対しての国家の義務がないことを意味していますが、宇宙関連については、この条項がそのまま適用されるのかという問題があるわけです。宇宙条約(OST)の第6条は、非政府の宇宙活動の認可と継続的な監督に関する国際的な責任と要件を国家に課していることから、その条項との関係が問題になります。

スターリンクは米国によって認可され「監督」されているため、この宇宙条約の要件によって、スターリンクのサービスに対する責任が民間企業から国家のものに変わる可能性があるかどうか、またどのような目的で変わるかという問題があります。OST の第 6 条が適用される結果、提供される支援が交戦国活動を支援する輸出または輸送といえると考えられた場合、ハーグ第5条約 7 条の中立法の免除が適用されずに、米国が中立義務に違反しているのではないか、というのが論点になります。これは、ロシア軍の動きを追跡するために民間企業がウクライナに合成開口レーダー(SAR)の利用を許可した場合にも、同じ問題が発生します。(ちなみに合成開口レーダーについては、「合成開口レーダー(SAR)とは 悪天候でも観測精度高く」の記事をどうぞ)

ハーグ5号はまた、第8条において、「交戦国のために、電信ケーブルもしくは電話ケーブル、またはそれ自身もしくは企業もしくは私人に属する無線電信装置を使用すること 」という規定が存在しており、これは、中立義務に違反するものではないことが明らかにされています。この条項は、同7条と異なり、この規定は国家と私企業の両方に明示的に適用されます。しかし、この「装置」の使用は、すべての紛争当事者に等しく提供されなければなりません。ロシアがスターリンクの利用を阻害された場合(現在の制裁下ではその可能性が高い)、ウクライナへのサービス提供は再び米国による中立国の義務違反とみなされる可能性がでてきます。

スペースドメイン論文は、

ウクライナでのスターリンク利用が提起する第2の疑問は、スターリンク衛星が軍事目的に認定される可能性があることである。

とします。これは、スターリンク衛星が軍用物であると認定されれば、武力紛争法の下で標的となりうることになります。ロゴジンの発言やロシアの対衛星兵器能力を考えると、これは単なる学術的な議論ではなく、そのリスクが現実のものとして生じうるのです。

軍事目標には、「その性質、位置、目的または使用により、軍事行動に効果的に寄与し、その時点の状況において、その一部または全部の破壊、捕獲または無力化が確実な軍事的利点をもたらすもの」が含まれる。ウクライナ政府がこの定義に合致する方法でスターリンク社のサービスを使い始めた場合(例えば、軍事的な指揮統制のため)、その登録状態にかかわらず、これらの衛星はロシア軍にとって正当な軍事目標となるであろう。

スターリンク衛星が軍事目的に該当する場合、ロシアは間違いなく ジュネーブ条約第一追加議定書(API) 57 条の攻撃における合理的予防措置を講じる義務を負うということは、重要であるとされています。このような状況下で実行可能であれば、ロシアはスペースX社に対し、スターリンク衛星を標的にする前に、ウクライナによるスターリンクの利用を終了させるよう要請すべきであるとなるわけです。

このような状況でウクライナの利用を終了させる決定において米国政府が果たすべき役割は不明だが、OST第6条に基づく国家責任の問題を再び提起することになる。はっきりしているのは、スペースXという民間企業が、米国の国家宇宙ライセンス法を通じて、国際的な武力紛争に介入し、交戦国双方の関心を高めたということである。すべての宇宙活動において国家が果たす特別な役割を考えると、米国はこれらの重要な問題に関して自らの立場を明確にすることが望ましいと思われる。

(2)国際宇宙ステーションに対するロシアの脅威

2月24日、ドミトリー・ロゴジン氏が、国際宇宙ステーションが墜落する可能性があるというツイートをしたことについては、上でふれた。ロシアが同様の行動を脅かすのは初めてではなく、2014年と2021年にも同様の脅しをかけているとのことです(スペースドメイン論文)。

ロシアが合法的にそれを行うことができるのか、また、行った場合、どのような法的影響があるのか、多くの人に疑問を抱かせているとして検討しています。

墜落行為の合法性

この点については、スペースドメイン論文では、関連する国際法としては、関連する条約(宇宙条約-OST、救助協定、責任条約、登録条約)、より広範な国際法体系と、ISSの関係者間の1998年の政府間協定(IGA)が問題になるとしています。これらの国際法は、ロシアに対して4つの主要な義務を課しています。

(1)政府間協定

IGAの第10条は、各パートナーが提供したISSの要素を「安全、効率的、効果的に」運用する義務を課している。宇宙条約も第9条で同様の義務を課しており、「この条約の他のすべての締約国の対応する利益に十分配慮して」すべての宇宙活動を実施するよう求めています。どちらの条項も、責任ある行動をとるというかなりあいまいな義務を規定しています。ロシアがISSの推進システムを停止し、それに伴う軌道離脱の脅威を与えることは、この義務に違反し、ロシアのIGAとOSTの義務に違反することになる。

(2)宇宙条約第9条

宇宙条約9条は、適切な配慮を行うことに加えて、他の締約国の宇宙空間の平和的探査と利用に「有害な干渉を引き起こす可能性がある」活動を行う前に、国際協議を行うよう締約国に求めている。ISSの脱軌道は、ISSの多くのパートナー(米国、カナダ、日本、欧州宇宙機関など)にとって、間違いなくそのような有害な干渉を引き起こすことになる。

(3)搭乗員の保護

現在ISSには7名(アメリカ人宇宙飛行士4名、ロシア人宇宙飛行士2名、欧州宇宙機関フライトエンジニア1名)が搭乗しています。

宇宙条約第5条は、

条約の当事国は、宇宙飛行士を宇宙空間への人類の使節とみなし、事故、遭難又は他の当事国の領域若しくは公海における緊急着陸の場合には、その宇宙飛行士にすべての可能な援助を与えるものとする。宇宙飛行士は、そのような着陸を行ったときは、その宇宙飛行士の登録国へ安全かつ迅速に送還されるものとする。
いずれかの当事国の宇宙飛行士は、宇宙空間及び天体上において活動を行うときは、他の当事国の宇宙飛行士にすべての可能な援助を与えるものとする。
条約の当事国は、宇宙飛行士の生命又は健康に危険となるおそれのある現象を、月その他の天体を含む宇宙空間において発見したときは、直ちに、これを条約の他の当事国又は国際連合事務総長に通報するものとする。

としています。

また、救助協定第3条は、

宇宙船の乗員が公海又はいずれの国の管轄の下にもないその他の地域に着陸した旨の情報を入手した場合又はその事実を知った場合には、迅速に乗員を救助するために捜索救助活動に援助を与えることができる締約国は、必要があるときは、そのための援助を与える。援助を与える締約国は、打上げ機関及び国際連合事務総長に対し、現在とっている措置及びその実施状況を通報する。

ことを求めています。

スペーズドメイン論文によると

これらの条約は、宇宙船に搭乗している人員を意図的に脱軌道させることは想定していないが、規定の意図と目的は、明らかにそのような行為の禁止を示唆している。さらに、宇宙条約3条で宇宙活動に言及することにより組み込まれている国際法の残りも考慮しなければならない。意図的に宇宙船を脱軌道させ、乗員を死亡させ、目標国の領土に破壊的な影響を与えることは、国際連合憲章第2条4項の明確な違反である。

最後に、宇宙条約の第7条、責任条約の第2条と第3条の定めている責任の体系においては、発射国が絶対的な責任を負うと規定していることから、国際宇宙ステーションは、複数の国が共同で打ち上げ、運用するものであるため、責任の所在を明確にすることが極めて困難であるとされています。そして、国際宇宙ステーションの場合には、IGAは第16条で相互免責を定めており、ISSのパートナー国は「保護された宇宙活動」から生じる損害について、互いに対するすべての請求権を放棄することになっているところ、故意の不法行為による損害賠償を明確に除外しています。

もし、ロシアがISSの推進システムを他のパートナー国の許可や同意なしに停止した場合、「故意の不法行為」となり、ロシアはISSパートナー国から賠償請求を受けることになります。同論文によると

ロシアが意図的にISSを軌道から外し、第三者国に損害を与えた場合、責任条約第4条により、ISS加盟国はその損害に対して連帯責任を負わされることになります。しかし、他のISSパートナー国はロシアに対して損害賠償を請求することができるのです。

とされています。

(3)ロシアに影響を与える制裁

また、同論文は、ロシアの軍事技術分野を含む広範な経済制裁について検討しています。

もっとも、この論点については、

米国とNATOによる制裁措置は、短期的にはロシアの宇宙開発計画に大きな影響を与えることはないと思われる。しかし、より長期的な影響は、制裁の正確な内容、現在進行中のロシア・ウクライナ戦争がいつまで続くか、また、紛争が終結したときに制裁が縮小または解除されるか(そしてその速さ)、ロシアが国際パートナー(中華人民共和国など)を見つけて制裁対象品の代替供給源を拡大できるか、などの問題によって左右される可能性がある。

としています。直接的な影響としては

  • ロシアは欧州とのソユーズ打上げ協力をすべて停止し、欧州宇宙機関とフランス領ギアナの国立宇宙研究センターが共同で運営する打上げ施設から約87名のロシア人従業員を引き上げた。
  • ロシアは反ロシア制裁キャンペーンに参加している国の民間企業との取引関係を停止していること。
    • 例えば、バイコヌール宇宙基地での人工衛星「OneWeb」の打ち上げ契約を停止し、軍事利用をしないことの保証と、英国が保有する同社株式の完全売却を要求している。
    • ロシアは3月3日付でUnited Launch AllianceとNorthrop Grummanが使用していたRD-180とRD-181のロケットエンジンの供給を打ち切った。

があげられています。

中立法やサイバー領域における論点がいろいろと生じたこともあるわけですが、ロシアのウクライナ侵略によって提起された宇宙法の諸論点も興味深いものがあるということができるかと思います。

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