ロシアのウクライナ侵略に関して、「ハイブリッド戦争」という用語がメディアやシンクタンクの報告書を賑わしています。
例えば、新聞だと
- 日経ニュース プラス9【緊迫の台湾 中国が仕掛ける「ハイブリッド戦」】
- 「ハイブリッド戦、安保戦略明記へ サイバー司令塔検討 政府、ウクライナ侵攻踏まえ」(日本経済新聞 5月9日)
- 「太平洋ハイブリッド戦に備えを 独立コンサルタント レスリー・シーベック氏」(日本経済新聞 6月26日)
- 「帝国日本のプロパガンダ 貴志俊彦著 今に続く「ハイブリッド戦争」」(日本経済新聞 7月23日)
があげられます。もうすこし、範囲を広げると
- 「日本は「ハイブリッド戦争」の脅威に備えているか-ウクライナ侵攻に見たサイバー、情報などの領域横断」(東洋経済)
- 「ハイブリッド戦争=見える戦争+見えない戦争 =民主主義は専制主義を倒せるか=」(中野 哲也)
- 「台湾有事とハイブリッド戦争」(大澤 淳)
がありますし、アカデミアのレベルを含めると、
などがあります。
ただし、国際法でのアプローチになれている私からすると、これらの議論がきわめて表面的で、具体的な状況に応じて検討がなされていない、という感じがします。
廣瀬陽子は、その15頁で
ハイブリッド戦争とは政治的目的を達成するために、軍事的脅迫とそれ以外のさまざまな手段が組み合わされた非正規戦と正規戦を組み合わせた戦争の手法と言えます。非正規戦には。政治経済、外交、サイバー攻撃、プロパガンダを含む情報心理戦などのツールのほかテロや犯罪行為などが含まれます。あらゆる境界が、なくなっている中で戦闘が展開され。また戦う主体、もその方法も非常に多様化しています、
としています。また、「台湾有事とハイブリッド戦争」(大澤 淳)は、情報戦・心理戦/サイバー戦/通常戦という分け方をしています。
これらの表現をみていくときに、法的にみていく場合とは、用語の使い方が、どうも感覚的にあわないことを感じます。この私が感覚があわないと感じているのは、どうしてなのか、そもそも、「ハイブリッド戦争」という概念は、役にたつのか、誤解を招きやすいのではないのか、むしろ、誤用に近いのではないか、ということをメモしたいと思います。
0 前提知識
0.1 戦争という用語を利用しないことについて
(国際法の)法律家は、「戦争」という概念を使いません。武力紛争という表現になります。これは、戦争といった場合に形式的な意味の戦争を意味すると解されることが多いこと、また、実際にジュネーブ条約において、戦争という用語を使わないことで、議論の一致を見たことによります。黒崎ほか「防衛実務 国際法」では、
戦争が法的な状態として存在することが否定されたことである
とされています(1324)。
この「戦争の違法化」についての論考として三石 善吉「戦争の違法化とその歴史 」/ 西嶋 美智子「戦間期の「戦争の違法化」と自衛権」などあるのて、クリップしておきます。これを見れば、新聞社さんや憲法の先生あたりは、国際法の歴史とかが「苦手な言葉」(メフィラス構文)なのだろうと推測してしまいます。
この武力紛争という概念は、国連憲章のフレームワークに基づいています。とりまとめている私のブログとしては、
があります。一言でいうと、深刻な結果を発生しうる武力の行使があった場合に、被害国は、国連憲章の枠組みのもと、国連に対して相当な行動を要請することができて、それがなされるまでは、国家の生来の権利として自衛権を行使することができ、そのなかで、武力を行使しうるので、結局、武力の双方の全面的な行使が行われうる、ということになります。この武力の双方の全面的な行使が、実質的な意味での「戦争」ということになります。このあたりは、武力紛争についての一般的な説明になるので、ちょっと省略します。
廣瀬氏の「非正規戦と正規戦を組み合わせた戦争」という表現は、武力紛争のレベルに達した場合をいっているように思います。その一方で、平時の場合についても、「ハイブリッド戦争」という論者は多いように思います。「戦争」という言葉は使わないこと自体をもって、上の論がおかしいということはしないつもりですが、論じている場合が、武力紛争についてなのか、それとも、その閾値(武力の行使/武力攻撃)以下なのか、それとも、「主権侵害」/内政干渉禁止原則の閾値を越えているのか、どうか、などについて、チェックして考えないといけないだろうというのが、法律家的な観点です。
0.2 地政学って何か?
このごろよく聞く言葉に「地政学」という言葉があります。地政学というのは、
地政学は世界の政治現象を動態的に把握し、権力政治の観点にたって、その理論を国家の安全保障および外交政策と結び付ける
立場とのことです。(コトバンクのサイト)
ただし、近時いわれている地政学は、英語圏でのgeopoliticsで、むしろ、上の定義は、ドイツ語のGeopolitikや日本語の地政学とはちがうものののようです。(高木彰彦「地政学に関する覚書 一地政学概念の変遷をめぐって一」)
英語圏でのgeopoliticsというのは、
国際関係の構成を理解するのに空間が重要だとみなす,古くからある地理学的な研究領域
のようです(上の高木論文)。なので、国際関係論のなかでの地理的な要素を重視するアプローチくらいで理解しておくことにします。高木論文は
英語圏の政治地理学においては,geopoliticsは地理学における国際関係論として意味づけられることになる
という説明があります。
あと、柴田 陽一「日本における訳語「地政学」の定着過程に関する試論・補遺」では「いわゆる知識人が唱える論壇地政学のまなざし」という表現があるのも興味深いです。
「地政学」という学問から、ハイブリッド戦争という用語がなんたら、という場合においては、国際関係の構成の一部として論じられているという理解をします。ただ、「地政学」の見地からの分析というのは、苦手なところでもあります。
0.3 戦争(War v. Warfare)
法的な立場からは、「戦争」という用語は、使わないというのは、0.1で触れたのですが、そこは、世間に迎合するとしても、「戦争」という用語については、WarとWarfareという用語があります。
この違いですが、 ‘war’は「国や集団などの間で戦う状況」(to fight a war / to go to war / nuclear war / a prisoner of war…)。’warfare’は「戦争をする方法」という意味とされています。(Difference between War and Warfare )
さらに、戦略(Strategy)、作戦(operation)、戦術(tactics)というレベルの話もされます。そして、サイバーの話が出るのは、作戦レベルになります。タリンマニュアルも正式名称は、「サイバー作戦に適用しうる国際法についてのタリンマニュアル2.0(Tallinn Manual 2.0 on the International Law Applicable to Cyber Operations)」になります。
1 ハイブリッド戦争の定義について
まず、最初に、検証に耐えうる概念として、「ハイブリッド戦争」をどのように定義したらいいのかを見ていきます。その意味で、上記廣瀬陽子の概念は、「武力の行使」の閾値を下回る場合について、考えているのかはっきりしない、ことから、とりあえずは、検討の外に置くことにします。
1.1 防衛白書の概念
わが国の議論でもって、言葉について厳格に対応しているだろうという観点からいくと、防衛白書を見るのが一番いいだろうというアドバイスをいただいたので、見てみます。防衛白書(令和4年版)は、こちらです。
その1頁には、
国家間の競争は、軍や法執行機関を用いて他国の主権を脅かすことや、ソーシャル・ネットワークなどを用いて偽情報などを流し、他国の世論を操作することなど、多様な手段により、平素から恒常的に行われている。こうした競争においては、軍事的手段と非軍事的手段を組み合わせた、いわゆる「ハイブリッド戦」
という定義がなされています。「軍事」というのは、生来的に、人の生命を奪い・身体を傷つけるもの、もしくは、物を破壊し/機能をそこなうもの、という性質をもつものと考えます。
また、そこでは、「グレーゾーンの事態」について
純然たる平時でも有事でもない幅広い状況を端的に表現したもの
という説明もなされています。
考慮された概念というのは、こういうのをいうのですよと、読み味わってもらいたいものです。この2行の中にいろいろいな意味が詰め込まれているように思います。
- いわゆる「ハイブリッド戦」としており、「ハイブリッド戦」というのは、「いわゆる」とつけなければならない程度に曖昧、もしくは、俗な、概念であって、それ自体、検証に耐えうるかどうか、疑問に思っているというのが、防衛白書のスタンスであること
- 「戦」としているが、これは、広い意味で、「国家間の競争」をいっていること
- 平素から恒常的に行われているのであり、武力紛争時ではない場合(平時)においても利用される概念であること
- 「他国の主権を脅かす」というのが、国家間の競争においてひとつの重要な手段として認識されていること
- 「他国の世論を操作すること」も国家間の競争においてひとつの重要な手段として認識されていること/しかし、それは、「他国の主権を脅かす」とは、原則として認識されていないこと
というのがわかります。
1.2 概念の歴史
Hoffman(2007)
ここで、この点について論じている評価に堪える論文としては、Frank G.Hoffman “Conflict in the 21st Century : The Rise of Hybrid Wars”をあげることができます。この論文は、ポトマック研究所のもとで発行されています。同研究所は、
1994年に設立され、米国議会の旧技術評価局(OTA)の遺産を受け継ぎ、様々な科学技術テーマについて、超党派でデータに基づく分析と政策提言を提供しています。数十年にわたり、ポトマック研究所は、独立した客観的な情報に基づく科学技術政策と分析を行う「頼りになる」場所となっています。米国議会、ホワイトハウス、国防総省、米国科学財団、米国航空宇宙局、国土安全保障省、エネルギー省、情報機関、その他多くの機関に対し、研究を実施し、ハイレベルな戦略的支援を行っています。
ということで、その研究のレベルについては、信頼がおけると考えます。
この論文では、まず最初にAlan Duponの“Transformation or Stagnation?: Rethinking Australia’s Defence”(2003)
20世紀の国家紛争の状況は、ハイブリッド戦争と非対称的紛争(contests)にとっておき替わられ、そこでは、兵士と民間人/組織だった暴力・テロ、犯罪および戦争の区別は、明確ではない。
というコメントが記載されています。このDupon(2003)論文では、近代的な通常兵器システムの使用が制限されるハイブリッドな戦争形態という表現が見受けられます。
Hoffman(2007)に戻ります。同論文では、
- 2005年からのアメリカの国家防衛戦略(NDS)において、敵のより広範な戦争(range of wars)における脅威を特定し、対応することが重要な問題となっていること、そこでは、不定形の脅威・破滅的なテロリスト、技術的なブレークスルーによる破滅的な脅威が課題であること
- 2006年の4年ごとの防衛レビュー(四年ごとの国防計画 見直し (Quadrennial Defense Review: QDR))において、将来の脅威は、西側の脆弱性を標的とするように特別にデザインされたシナジーとユニークなコンビネーションになるものと指摘していること/戦争のモード、戦闘者の曖昧化、利用される技術が、広範囲となり複雑になることを指摘していること
同防衛レビューにおいて
ハイブリッド戦争は、広範な異なった戦術(warfare)を採用し、 伝統的な能力・不定形な戦術およびフォーメーション、無差別な暴力・強制を含むテロリストの行動、刑事的無秩序をふくむものである
とされていることが引用されています。
なお、詳細にいうと、
- By Lieutenant General James N. Mattis, U.S. Marine Corps, and Lieutenant Colonel Frank Hoffman, U.S. Marine Corps Reserver (Retired) “Future Warfare: The Rise of Hybrid Wars” (2005年 11月)
- Frank G.Hoffman “Complex Irregular Warfare: The Next Revolution in Military Affairs”(2006年夏)
- “How Marines are preparing for hybrid wars“(2006年3月)
などでこの論点が展開されています。
Hoffman(2007)は, イラク・アフガニスタン戦争が将来の紛争についての予言をするものであるとします。そして、「紛争の変貌しつつある性格」調査のプログラムにおいて、第4世代戦争概念、複合戦争(Compound Wars)、超限戦(Unrestricted Warfare)を検討します。そして、これらの研究において、
- 多数方向性(Omni-directionality)
- 同調性(Synchrony)
- 非対象性(Asymmetry)
を主張します。
Hoffman(2007)におけるハイブリッドの脅威と課題は、上の性格が、収斂して、ハイブリット戦争になるとしています。
「ハイブリッド戦争(Hybrid Wars)」は、
- 国家紛争の致死性と非正規戦の疾風怒濤性を混合させている
- 「ハイブリッド」というのは、組織と手段をともに意味している
としています。
戦略レベルにおいては、定型的要素と不定形要素を有する戦争は多いが、たいていの場合、要素は、別の場、離れたフォーメーションで発生する。ハイブリッド戦争においては、これらの力は、同一の戦場において、同一の力として、輪郭が曖昧になる。
また、2005年に、このハイブリッド戦争のコンセプトを発展させてから、同一の結論に及ぶものが多かったとされています。
このような考察のもと、ヒズボラをプロトタイプとしてあげています。また、今後への示唆として、軍の構成、インテリジェンス、「政府あげてのアプローチ」、組織的文化/エトス、ドクトリン、訓練と教育、作戦立案/キャンペーンデザイン、ナラティブの生成があげられています。個人的には、ここで、ナラティブの生成が興味深いと思われます。
現代のメディアを活用して、広範な大衆に伝達し、その理由を指示させることが重要になったことを指摘しています。敵側と一般大衆の「心を操作する」影響を学ばないといけないとしています。認知ドメインは、紛争において重要な考慮が必要として、「心と心情(hearts and minds)」が、戦場においてもっとも主要な部分を締めるかもしれないという指摘をしています。
この当初のハイブリッド戦争の議論においては、
- 武力紛争の閾値を超えた場合の議論をしていたこと
- そこでは、「ハイブリッド」というのは、組織と手段における範囲の広がりを意味していた
ということがいえます。
しかしながら、その後、2010年代は、この用語がさらに異なった意味をもつようになったといえるようです。その例として
NATOドクトリンの変遷
をみることができます。この指摘は、Jan Almäng「War, vagueness and hybrid war」によります。
NATO の2010年のドクトリン(AJP-01ALLIED JOINT DOCTRINE)では、軍事力の将来のバランス(0213)において、「その他の脅威」のひとつとして
証拠によると、国家と非国家主体(反政府勢力、テロリスト、犯罪者など)の境界がさらにあいまいになる可能性があり、NATOはその後、通常型と非通常型の両方の手段を用いて敵に立ち向かう可能性がある。これは、偶然または連携していない行為者の複合的な脅威である可能性もあれば、決意のある敵が同時かつ連携した方法で使用する場合はハイブリッドである可能性もある。こうした敵対勢力は、可能な限り同盟国の脆弱性を突くためにハイブリッドな脅威を利用する。彼らは西側の法律や倫理の枠組みに縛られることなく、予想が困難な方法でNATOに挑戦する可能性がある。ハイブリッドの脅威に対抗するには、住民の心と精神をめぐる戦いが予想されるため、認知の領域で効果を発揮する行動をより重視する必要があるかもしれない。敵対者はまた、勝利を求めるよりも敗北を回避するような長期的戦略を採用することを選ぶかもしれない。ハイブリッドの脅威への対処を成功させるには、軍事手段だけでは不可能な場合がある。むしろ、情報作戦に支えられたより広範な包括的アプローチが必要となるであろう
とされていたにすぎませんでした。
NATO の2017年のドクトリン(AJP-01ALLIED JOINT DOCTRINEEdition E Version 1 )では、
2-11 の軍事的トレンド 軍事力の将来のバランス(2.19)において「世界的防衛支出」「テロリズム」「サイバースペースの防衛」などとならんで「ハイブリッド脅威」の定義がおかれています。そこでは、
ハイブリッドな脅威は、従来型、非正規、非対称の脅威が同じ時間、同じ空間で組み合わされた場合に発生する。紛争には、世界的、地域的に活動する多国籍、国家、グループ、個人の参加者が含まれる可能性がある。一部の紛争は、地域間暴力、テロ、サイバースペース攻撃、反乱、蔓延する犯罪、広範な無秩序を同時に含む可能性がある。
(NATO 2017, p. 2-11) とされています。
ここで、上のAlmängは、
“ハイブリッド “と認定するために、紛争が運動的次元を持つ必要があることを意味する定義がないことである。NATOは、この用語を非常に広い意味で使うようになったと言ってよいでしょう。この点ではNATOだけではありません。この用語は、ここ数年、さまざまな脅威や種類の紛争に使われるようになっています。
と述べるとともに、このような概念の拡張について
NATOは、この言葉を非常に広い意味で使うようになったと言ってよいでしょう。この点ではNATOだけではありません。この言葉はここ数年、さまざまな脅威や種類の紛争に対して使われるようになりました。
として、注1で、「ハイブリッド戦争」という言葉を、単に軍事的な側面だけでなく、情報的・経済的な側面も含むような最も広い意味で使っている著者として、McCuen(2008)、Scheipers(2016)などがいるとして紹介しています。(Jonsson と Seely は同じ現象を記述しているが、「ハイブリッド戦争」ではなく「全領域紛争」という用語を好んでいる。(Jonsson and Seely 2015))。
NATOのシンクタンクの説明
NATOは、二つのシンクタンクと関係があるので、そこでの説明をみていくことにします。
HYbrid CoE
フィンンランドのヘルシンキにあるHybrid CoEです。ヘルシンキの訪問記は、こちら。
Hybrid CoEは、ハイブリッドな脅威に対抗するために、政府全体と社会全体のアプローチを促進する、国際的で自律的なネットワークベースの組織で、センターの活動への参加は、すべてのEUおよびNATO加盟国に開かれており、参加国の数は現在31カ国にまで増えています。
ハイブリッドCoEの使命は、ハイブリッドの脅威に対抗するための専門知識と訓練を提供することによって、参加国や組織の安全保障を強化することです。
フィンランド自体は、NATOへの加盟を申請したところであり、まただ未加盟ですが、このCoEは、EUとNATOの両方が共に活動し、演習を行う唯一の主体であるという意味でユニークであり、民間から軍事まで、敵対的影響からハイブリッド戦争まで幅広い領域を網羅する活動を展開しています。
センターの重要な任務は、ハイブリッドの脅威を防ぎ、それに対抗する参加国の能力を構築することである。これは、ベストプラクティスの共有、勧告の提供、新しいアイデアやアプローチのテストによって達成されます。また、実務者の訓練や実践的な演習を実施することで、参加国の運用能力を向上させるとしています。
そこでは、ハイブリッド脅威という用語は、
国家または非国家主体によって行われる行動を指し、その目的は、地方、地域、国家または組織レベルでの意思決定に影響を与えることによって、標的を弱体化させたり、傷つけたりすることである。このような行動は協調的かつ同期的に行われ、民主的な国家や制度の脆弱性を意図的に狙ったものである。活動は、例えば、政治、経済、軍事、市民、情報の領域で行われることがあります。活動は幅広い手段を用いて行われ、検知や帰属の閾値を下回るように設計されている。
とされています。そして、その性質として、以下のことをあげます。
- ハイブリッドな行動は、ハイブリッドな行為者が国際政治の通常の境界線を曖昧にし、外部と内部、合法と違法、平和と戦争の間のインターフェースで活動するため、曖昧さが特徴とする。この曖昧さは、政治的議論や選挙に対する偽情報や干渉、重要インフラの妨害や攻撃、サイバー作戦、さまざまな形態の犯罪活動、そして最終的には軍事的手段や戦争の非対称な使用など、従来型と非従来型の手段を組み合わせることによって生み出される。
- 前述の非従来型と通常型の手段を併用することにより、ハイブリッド・アクターはその行動を曖昧さとあいまいさに覆い隠し、帰属と対応を複雑にしています。さまざまな媒介者、つまり代理行動者の利用は、これらの目標の達成を支援する。ハイブリッド行動はターゲットの脆弱性をハイブリッド行為者の直接的な強みに変えるので、費用対効果が高いのです。このため、ハイブリッド行動の阻止や対応はより困難となる。
- 国際的な権力構造の変遷は、ハイブリッド行動のための肥沃な環境を提供している。西側諸国と権威主義国家との間の価値観の対立の激化は、国際規範と制度を侵食し、開かれた西側社会を包括的なハイブリッド行動のターゲットとする。西側社会の国内領域に及ぶ価値観の対立は、西側アクター内およびアクター間の分極化と不統一を高め、外部干渉に対してより脆弱にする。現代技術の最近の発展と複雑化する情報環境は、西側社会が適切に対抗しなければ、ハイブリッド行為者に強力な手段を提供することになります。
したがって、ハイブリッドCoEはハイブリッドの脅威を次のように特徴づけている。
ここでは、ハイブリッド脅威が武力の行使の閾値を下回るものに焦点をあてて定義されています。
また、この分析のひとつの分野として戦略および防衛の分野があって、そこでは、ハイブリッド戦争(Hybrid Warfare)についての検討がなされています。さすがに細かい分析は、できません。> 詳細な調査については、予算のある方お待ちしています。
STRATCOM
ひとつは、リガ(リトアニア)のSTRATCOMです。ちなみにリガ旅行記は、こちらです。
「戦略的コミュニケーションとは?」において、
戦略的コミュニケーションは、パブリック・ディプロマシー、政治的マーケティング、説得、国際関係、軍事戦略、その他多くの要素を包含しています。
とされていて、価値観や関心に基づいたコミュニケーションへの全体的なアプローチであり、争いの絶えない環境において、目的を達成するために行為者が行うすべてのことを包含していると理解していますとされています。そして、NATO StratComは、同盟国の政策、作戦、活動を支援し、NATOの目的を達成するために、NATOの通信活動や能力を協調的かつ適切に活用することを目的としています。
- パブリック・ディプロマシー(広報活動)。同盟国の国内活動を補完する形で、NATOの政策、作戦、活動に対する認識と理解、支持を促進するためのNATOの文民コミュニケーションとアウトリーチ活動。
- 広報活動。メディアを通じたNATOの文民の関与により、NATOの政策、作戦、活動をタイムリーに、正確に、迅速に、かつ積極的に国民に知らせること。
- 軍事広報: NATOの軍事的側面に対する認識と理解を深めるため、聴衆に対してNATOの軍事的目的と目標を宣伝すること。
- 情報活動。同盟の活動、ミッション、目標を支援するために、敵対勢力やNACが承認した他の当事者の意思、理解、能力に対して望ましい効果を生み出すためのNATO軍の助言と軍事情報活動の調整を行う。
- 心理作戦:政治的・軍事的目標の達成に影響を与えるため、認識、態度、行動に影響を与えるよう、承認された対象者に向けた通信手段やその他の手段を用いた計画的な心理学的活動。
ハイブリッド脅威のなかで、戦略的な通信のなす意味にフォーカスして議論している、ということが特徴ということになるだろうと思います。
ここでのHybrid Warfareのとらえ方みたいなのは、わかりませんでしたが、「#StratComEvent | NATO’s Approach to Hybrid Warfare: Evolving Threats and Lessons for Canada and Europe」というセッションの記録があります。そこでは、「ハイブリッド戦争」とは、通常戦/非通常戦、正規戦/非正規戦、サイバー戦、情報戦術など、複数の側面を含む紛争であり、その性質には多くの混乱があります。新たな脅威は、カナダや欧州連合(EU)加盟国の大半を含むNATOの同盟国にとって安全保障の優先順位を再定義させていますというような視点があります。
1.3 概念の多義性の指摘
上で紹介したAlmängは、この概念に対する批判として
- 非従来型戦争と政治戦争の新しい用語にすぎない(Kofman and Rojansky(2015))
- この用語があまりに広い意味を持ち、説明的価値を欠く(Van Puyvelde(2015))これは、実際には、どのような脅威 も、それが単一の戦争の形態と次元に限定されない限り、ハイブリッドになり得る。あらゆる脅威や武力行使がハイブリッドと定義されると、この用語はその価値を失い、現代戦の『現実』を明らかにする代わりに混乱を引き起こす」(Van Puyvelde 2015)というものです。
があることを紹介しています。
また、他の著者は、この用語が異なる文脈で非常に異なる意味で使用されていることを示唆しています。この例として、Mark Galeotti はハイブリッド戦争という用語の意味を、本質的に無血であるが、それに劣らず冷酷な「政治戦争」と、ウクライナで経験した政治的・軍事的「ハイブリッド戦争」である」(Galeotti 2016, p.97)という記述が紹介しています。
結局、
- 2000年代中盤の最初の概念の段階だと、武力紛争において、その関与者・手段の広がりを指摘するということで、概念の中核ははっきりしていたこと
- その後、2010年代以降は、論者が、自分なりの観点から、「ハイブリッド戦争」という用語を利用するようになったこと
- 現在、概念の有用性についても疑問が呈されていること
- NATOは、むしろ、「ハイブリッド脅威」という観点から整理しようと考えていること
などが、ポイントになるかと思います。
1.4 防衛白書や小泉先生の見解について
このような見地から、防衛白書(令和4年版)(こちら)や「ウクライナ危機にみるロシアの介入戦略 ハイブリッド戦略とは何か」(小泉悠) をみていきます。
防衛白書についていえば、それが広範の概念であること、認知状況等についての議論も含んでいること、概念の曖昧さを認識しているものとなどから、現在の議論状況を反映しているということができるだろうと思います。
小泉論文は、「ハイブリッド」戦争の概念の紹介をしていて、概念に対する批判的な見解に対しても、配慮した上で論を進めています。そして、ロシアのクリミア半島への行為を
「ハイブリッド戦争」手法を用いた「人間戦争」の現出であった。(略) 重要なことは、ロシアが総合的な劣勢かにありながらも、自らの勢力圏とみなす地域に対してnatoの逆介入を回避しながら介入を行いうる手段を生み出したことにあるといえよう
としています。その意味で、アメリカやNATOの枠組で、分析することの限界主張しているのかもしれません。これの評価というのは、私の力量を超えるということになります。
2 法律家は、ハイブリッド脅威をどう考えるか
このように概念をめぐる議論を見たときに、「ハイブリッド戦争」について、法律家は、どう考えるのか、という問題について問題点を整理したいと思います。
2.1 ハイブリッド脅威
法律家は、「戦争」という用語はつかわないので、「ハイブリッド脅威」という用語から整理することになります。この場合、ハイブリッド脅威というのは、
国家または非国家主体によって行われる行動であり、伝統的な能力・不定形な戦術およびフォーメーション、無差別な暴力・強制を含むテロリストの行動、刑事的無秩序、情報活動、心理作戦をふくむ手段によって行われる標的の国家を弱体化させたり、傷つけたり可能性のある脅威
と定義することが可能だと思います。基本的には、米国軍のQDRの定義をもとにして、2010年代のNATOの特に心理作戦などの手段を広範にした定義を合体したものになります。
そして、それを国家に対する脅威という観点らか捉えることを私の立場としています。
これ自体は、上の1で論じたことの総集編であり、検討の結論になります。この概念は、上記の防衛白書の概念の意図していること(武力の行使であることを必要としないこと、世論の操作も含まれること)を含め、組織と手段をともに意味しているものであること、国家の弱体として、主権侵害の閾値を超えるかどうか、という問題を問わないものとしたこと、という意味を含んでいます。
2.2 ハイブリッド脅威の脅威スペクトラムへのマッピング
このようにハイブリッド脅威を捉えることは、国際法のアプローチにとっては、議論のスタート地点でしかありません。従来の議論にマッピングした場合に、何か見落としていることがありうるのか、対抗する国家は、どのような対応をするのか、ということに対する示唆を得ることができるものと考えられます。
従来の議論にマッピングする場合に参考となるものに、2017年のドクトリン(AJP-01ALLIED JOINT DOCTRINEEdition E Version 1 )の紛争のスペクトラムの図(図2.1 紛争のスペクトラム)を利用してみます。
スペクトラム
これは、問題となる脅威が国内に与える影響の度合いに応じて、国民主権の原則への影響から、内政干渉レベル、武力の行使のレベルがそれぞれの閾値になっていることを示しています。
なお、内政干渉レベルについて触れていますが、英国の見解については、
などを参照ください。
国際法と国内法
今一つの問題は、国際法と国内法の問題です。
法の世界は、国家間の関係に関する国際法と国内法とにわかれます(いわば、パラレルワールドです)。これらは、それぞれの関係を論じる場合、ひとつの世界を形作っていて、どちらが優位というものではありません。しかしながら、テロリストは、国際法では、国の機関ではないので、それ自体に表に出てこないはずですが、ハイブリッド脅威としては、まさに、国際紛争の重要なプレイヤーとして表に出てくるのです。上の図で、国際法の次元のところにテロリストの黒い影がにじみ出ているイメージになります。
その意味で、従来の枠組で対応ができているのか、という問題を指摘する概念として「ハイブリッド脅威」という概念が有用であるように思えます。
2.3 武力紛争状態
この武力紛争状態において、ハイブリッド脅威が、どのように関係するのか、という問題になります。
武力紛争の状態において、対抗するための武器の利用については、国連憲章50条の枠組で対応がなされます。しかし、脅威が、不定形な戦術やテロリスト・犯罪者・ゲリラ的な攻撃参加などによって生じる場合にどのように対応するべきか、という問題が発生します。
国内法的には、この場合は、「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(武力攻撃事態対処法、以下、事態対処法という)において定められている武力攻撃事態等として対応がなされます。事態対処法は、情勢の集約並びに事態の分析及び評価を行うための態勢の充実、各種の事態に応じた対処方針の策定の準備、警察、海上保安庁等と自衛隊の連携の強化を図る法律です。
ここでは、「武力攻撃事態等」という概念が、キーポイントになっています。「武力攻撃事態」とは、武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいい、「武力攻撃予測事態」とは、武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいうとされています(同法2条)。
武力攻撃とは、「わが国にたいする国または国に準ずる者による組織的、計画的な武力の行使をいう」とされています。この場合、内閣総理大臣は、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができます(自衛隊法76条1項)。自衛隊に防衛出動が命じられた場合においては、自衛隊は、武力を行使しうるとされています(同法88条1項)。この場合においては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあっては、これを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとされています(同条2項)。
国際法的には、わが国は、この場合においては、個別的又は集団的自衛の固有の権利を行使することが可能になるので、それに対応するものといえます。防衛出動が命じられた場合においては、上記の武力の行使において用いられる作戦は、防衛のために必要とされるものであれば足りることになります。かりに、サイバー手段による武力攻撃がなされた場合であっても、それに対する防衛行為が、サイバー手段によるものに限られるということはありません。また、武力紛争の一環としての戦闘行為において採用される作戦がサイバー手段によるものである場合もあります。
もっとも、防衛出動のために、サイバー手段を用いるといっても、国外にある設備・戦闘員等に対する影響を与えうるのか、また、武器の使用規定はどうするのか、法律の体系において、どのように位置づけられるのか、それを利用しうる要件は何か、誰によって利用されるのか、許容されないような利用の仕方はあるのか、などの点については、まだ、具体的な議論はなされていないということはいえると思います。
2.4 内政干渉状態
上のスペクトラムでいった場合に、この事態は、武力行使がなされているわけではないが、国家のインフラ等のドメイン(ドメイン・レザベ)に対して外国からの強制力が行使された場合をさします。
国内法的には、事態対処法21条
我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保を図るため、次条から第二十七条までに定めるもののほか、武力攻撃事態等以外の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態に的確かつ迅速に対処するものとする。
にマッピングされるものと考えられます。
これは、さらに緊急対処事態(武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態又は当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(略)で、国家として緊急に対処することが必要なものをいう)(同法22条1項)とそれ以外にわけられるということができます。
緊急対処事態を引き起こす手段としては、一般には、著しい破壊力を有する爆弾の使用等の武力攻撃において通常用いられる攻撃の手段または生物剤、化学剤の散布等の武力攻撃において通常用いられる攻撃の手段に準ずる攻撃の手段が考えられています。
これらの手段によるのと同様の結果を惹起しうる場合においては、サイバー作戦による場合であっても、緊急対処事態に該当しうる場合があるということになります。その一方で、情報工作のみによってこのような状況が発生するというのは考えがたいでしょう。
情報工作のみによってなしうる工作を描いたドラマとして「英国スパイサスペンス「レッド・エレクション」」(Wowowオンデマンドでどうぞ)があります。(詳細は、A国の地域の独立の選挙にB 国が介入して、独立させた直後に、発電所がマルウエアによって緊急事態になり、…という話です)
この結果、政府としては、同法24条2項に基づいて、
- 情勢の集約並びに事態の分析及び評価を行うための態勢の充実、
- 各種の事態に応じた対処方針の策定の準備、
- 警察、海上保安庁等と自衛隊の連携の強化を図る必要
があることになります。
では、脅威のもとに対して、どのような対応ができるのか、という問題があります。攻撃行為の停止、妨害、抑止を行うことが考えられます。また、同様の行為によって証拠を取得するなどの情報収集行為を行うことが考えられます。これらの行為が、わが国の法体系のもとで、どのような組織が、どのような根拠法のもとで、なすことができるのか、ということになります。この問題については、わが国では、抽象的には、議論されていたとしても、具体的には、議論されていない問題ということができるでしょう(世界的にも、ほとんど議論されていません)。
抽象論とししては「政府としては、専守防衛を堅持しつつ、サイバー空間の特性も踏まえ、有事において相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力を整備することなどにより、サイバー防衛能力を抜本的に強化し、国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、万全を期していく考えです。」という国会での回答がなされており、何らかの強制力を行使しうる作戦を考えうる余地が示唆されています(https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/193/touh/t193047.htm)。
しかしながら、攻撃行為の停止、妨害、抑止行為や証拠を取得する行為が、国内法的に、どのような根拠法に基づいてなされうるのか、という問題が生じます。
まず、警察官は、そのような攻撃行為の停止、妨害、抑止行為や証拠を取得する行為をなすことができるでしょうか。警察官が、その職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的とするのが、警察官職務執行法です。同法は、警察官に対して、質問(2条)、保護(3条)、避難等の措置(4条)、犯罪の予防および制止(5条)、立入(6条)、武器の使用(7条)を認めています。ここで、上記の行為の権限となりうるのは、同法5条の犯罪の予防および制止の規定です。これらの規定にサイバー的な行為が可能であるといっても、実際にこれらの行為は、種々の偶発的な結果を招くこともありうることになります。その意味で、これらの行為について、実際になしうる手順等を定めることが絶対的に必要になる、ということになります。
自衛隊は、どうでしょうか。自衛隊法は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができるとして、治安出動を定めています(隊法78条、同81条)。この治安出動時時に上記のような行為をなしうるでしょうか。治安出動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務の執行には、警察官職務執行法の規定が準用されます(隊法89条1項)。したがって、上記の警察官の場合について考えたのと同じ法理によるものと考えられます。また、国民保護等派遣(隊法92条の2)などについても同様です。
また、これらの警察官や自衛隊の種々の行為について、国際法的な介入の禁止との関係は、どうでしょうか。我が国において、武力攻撃にいたらない場合の行動については、防衛省における「武力攻撃に至らない侵害に対する措置」が参考になります。すなわち、「武力攻撃に至らない範囲の自衛権の行使の場合、権利侵害の場合がありますから、それにつり合った武力の行使ということはあります。(略)51条は武力攻撃でございます。ところが、そうでない軽微な、いわゆる権利侵害や武力行使がある場合に、必要最小限度の範囲内で、それにつり合った武力の行使が行なわれる。これは非常に軽微な場合だと考えますが、そういう場合もあるかと考えます。」という答弁がなされています。従って、この立場を前提とするかぎり、限定的な強制力の行使が正当化される余地があるということになります。
詳細は省略しますが、外国からの武力攻撃に至らない侵害に対して限定的な強制力を行使するということは自衛隊法の具体的な規定との関係では手当てがなされていないということになります。
警察官によるサイバー攻撃行為の停止、妨害、抑止をなす行為、証拠取得行為についても、正当とされるものと考えられますが、それを利用しうる要件は何か、誰によって利用されるのか、許容されないような利用の仕方はあるのか、などの点について、まだ、具体的な議論はなされていないことは、武力紛争状態で論じたものと同様です。
2.5 内政干渉にいたらない情報工作等
これは、国際法的には、内政干渉禁止に触れず/主権侵害にも該当しない場合なので、それ自体は、放任されている分野といえます。もっとも、国内法としては、外国からの不当な影響力の行使というのは、問題にされるべきものになります。
選挙時における他国からの偽情報が大きな脅威となっているという事情が、それほどないために、民主制の過程を他国から守るという観点は、ほとんど議論されていないというのが現状であるということになるかと思います。
民主主義の根幹である選挙は、公正に行われなければならないということがいえるとともに、憲法15条において
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である
と定められていることから、他国民の影響からも自由であり、自律的なものでなさればならないということがいえるでしょう。
一般論として、外国人の選挙運動に関して、法は、これを禁止していないとしても、上記15条と正面から衝突するような外国の国家行為としての干渉行為は、また、別であり、むしろ、そのような干渉行為を禁止する国内法の整備は、きわめて重要であると考えます。
3 ボトムライン
結局、「ハイブリッド脅威」という概念は、
- それ自体として、新たな気づきを与えてくれるものではないこと
- 武力紛争主体手段の多様性が現実化していることを再度、整理して見せてくれること、
- わが国においては、国内法の整備に関してサイバー作戦、外国の影響による情報工作に対する対応がまったくなされていないことを再度見直すいい機会になること
で役に立つものといえるでしょう。その一方で、
- 概念がきわめて多義的であるので、何のためにこの概念を用いるのかというのを意識していない議論は、きわめて、浅い議論になること、また、
- 議論で誤解を招く要因のひとつになりかねないこと、
というのは、留意すべきことになるだろうと思われます。