英国労働党のデジタル戦略@国王のスピーチ2024、データアクセス法案、イノベーション戦略の歴史

EUのデジタル10年まわりの戦略と政策を概観しました(リンク)。かなり間が空いてしまいましたが、英国の政策を概観したいと思います。特に英国では、労働党政権のもとで、どのような感じになっているかは、勉強したいとおもうところです。

1 背景

英国においては、2017年にデジタル戦略が公表されました。これは、2017年1月の「産業戦略グリーンペーパー」を背景にしており、英国の戦略的な強みを生かし、根本的な弱みに取り組むことで、すべての人のために働く経済を構築するという野心をもとにする産業戦略を国全体のデジタル経済に適用するものです。

すべての人のために機能する世界をリードするデジタル経済を創造するという野心を核心にして、戦略としては

  • 世界規模のデジタルインフラの構築
  • デジタルスキル習得のためのアクセス
  • デジタルビジネスの開始・発展のための最適な場所にすること
  • すべてのビジネスをデジタルビジネスにすることの支援
  • 英国をオンラインで生活し・働く場所としてもっとも安全な場所にすること
  • 英国政府が、市民にオンラインサービスを提供する点において世界のリーダーであることを維持すること

があげられています。この戦略は、後に2022年に再度、新たなものが公表されています。

2 イノベーション戦略(2021)

2021年7月にビジネス・エネルギー産業戦略省・科学、イノベーション技術省から「英国イノベーション戦略 -創造で未来をリードする」が公表されています。

この英国のイノベーション戦略は

2035年までに英国をイノベーションの世界的なハブにするという政府のビジョン

を示しています。このための柱は、4つあって

柱1:ビジネスを解放する – イノベーションを起こそうとする企業を後押しします。

柱2:人材 – 英国をイノベーションの人材にとって最もエキサイティングな場所にする。

柱 3:制度と場所 – 研究、開発、イノベーションのための制度が、英国全土の企業や場所のニーズに応えられるようにする。

柱 4:ミッションとテクノロジー – 英国と世界が直面する主要な課題に取り組むためのイノベーションを刺激し、主要なテクノロジーにおける能力を促進する。

になります。

柱1は、具体的には

  • 研究開発への年間公共投資を過去最高の220億ポンドに増加させる。
  • Innovate UKとBritish Business Bankの間でオンラインファイナンスとイノベーションのハブを開発することにより、革新的な企業の複雑さを軽減する。
  • 英国のライフサイエンス企業が直面する成長段階の資金ギャップをターゲットに、British Business Bank の Life Sciences Investment Programme を通じて 2 億ポンドを投資する。
  • 英国がイノベーションから最高の価値を引き出せるようにするための規制のあり方について協議する。
  • 本戦略の実施を推進するために、新しいビジネス・イノベーション・フォーラムを設立する。

からなりたっています。

柱2は

  • 新しいHigh Potential IndividualとScale-upビザルートを導入し、Innovatorルートを活性化することで、高いスキルを持ち、グローバルに活躍できるイノベーション人材を引き付け、維持する。
  • Help to Growを通じて、支援する: 中小企業の上級管理職 3 万人を支援し、業績、回復力、成長力を高める。

からなりたっています。

柱3は、

  • フランシス・クリック研究所所長でノーベル賞受賞者のポール・ナース教授が率いる独立したレビューを実施し、あらゆる形態の研究、開発、イノベーションを行う英国の組織の状況を網羅する。
  • 英国内の研究開発能力を開発し、地域の成長を支援するために、Strength in Places Fundを通じて1億2700万ポンドを割り当てる。
  • 大学と企業のイノベーションを通じて経済成長を促進するため、Connecting Capability Fundに2,500万ポンドの資金を投じる。

からなりたっています。

柱4は、

  • 今後数年間、英国および世界が直面する最も重要な課題に取り組むため、新たなイノベーション・ミッション・プログラムを設立する。
  • 将来の経済を変革する主要な7つの技術ファミリーを特定する。
  • 新しいプロスペリティ・パートナーシップを立ち上げ、企業主導の研究プロジェクトを立ち上げ、5900万ポンドの産業界、大学、政府の投資を受け、変革的な新技術を開発する

からなりたっています。

3 英国デジタル戦略(2022)

これは、英国文化メディア・スポーツ省が、2022年10月4日に明らかにしたの政策文書であって、デジタル基盤、アイディアと知的財産、スキルと才能、デジタル成長への資金調達、英国全体:繁栄の拡大と平準化、世界における英国の地位の向上からなります。リンクはこちらです。具体的には、概要は、以下のとおりです。

3.1 デジタル基盤

私たちのミッションは、デジタル経済の基盤を強化することから始まります。私たちは、英国全土にワールドクラスのデジタルインフラを整備し、データの力を活用し、ブレグジットによって与えられた自由を利用して、投資とイノベーションの両方を奨励しながら市民を保護する、ライトタッチで成長促進型の規制体制を導入しています。これは、AI、データ、デジタル競争などの分野における規制上の競争優位につながるでしょう。

また、英国のハイテクとデジタルの安全保障を敵対的な国家の脅威から守り、機密性の高いハイテク知的財産が適切に保護されるようにすることを決意しています。

3.2 アイデアと知的財産(IP)

アイデアと知的財産は、デジタルビジネスを支えるイノベーションの核となるものです。研究開発(R&D)に対する政府の大幅な投資(2020/21から2024/25の間に年間150億ポンドから200億ポンドに増加)と、民間投資を刺激する研究開発税制の強化がこれを実現します。私たちは、学術的な環境からアイデアをより容易に商業化できるようにする必要があります。

また、人工知能、次世代半導体、デジタル・ツイン、自律システム、量子コンピューティングなど、未来の基盤となる深層技術における英国の既存の専門知識を積極的に成長させる必要があります。

NHSは、世界最大の統合医療システムとして世界的にユニークな存在です。このため、1つのシステムでケアされる多くの人々を反映した豊富なデータに基づき、革新的な新しいヘルスケア製品につながる研究開発に取り組む大きな機会があります。

3.3 スキルと才能

政府は、英国のテクノロジー企業が革新、開発、成長に必要なスキルや資金を利用できるようにします。私たちは、学校、大学、高等教育機関、企業と協力し、実経済が実際に必要とするデジタルスキル(実習やキャリアを通じたスキルトレーニングなど)を、理解しやすく認識しやすい枠組みで提供します。

この政府はすでに、人工知能の博士号取得に1,000人、AIやデータサイエンスの修士号転換コースに1,000人の奨学金を提供し、実習生を支援し、Tレベルを導入している。デジタル・スキル・パートナーシップはイングランド各地で展開され、新しいデジタル・スキル評議会は、デジタル・スキルが強化されていることを確認するために、ビジネスと政府を結びつけています。しかし、これらの分野すべてにおいて、さらに多くのことを行う必要があります。

また、世界中の優秀な人材が迅速かつ容易に英国に来ることができるようにすることも重要です。デジタルビジネスがすでに利用できる包括的なビザルート群に加え、新たにHigh Potential IndividualとScale-upビザを導入し、英国のデジタルビジネスが世界のどこからでも簡単に採用できるようにします。

3.4 デジタル成長への資金調達

英国には、企業投資スキーム(EIS)、シード企業投資スキーム(SEIS)、ベンチャーキャピタルトラスト(VCT)などのスキームを通じた素晴らしいベンチャーキャピタル投資インセンティブがあり、多くのダイナミックなアーリーステージベンチャーキャピタルファンド(VC)が、活気あるスタートアップ部門の定着に貢献してきました。このセクターの成長を継続させるためには、成長を阻害する市場の失敗を確実に解決していく必要があります。

英国には、シードやアーリーステージの企業に対する強力な国内投資市場があり、英国企業が成長し、規模を拡大するために資金を調達しています。しかし、英国のデジタル経済への英国資本の投資を促進するためにできることは、もっとあります。年金基金などの英国の金融機関が、米国のように新規株式公開(IPO)前の技術に多くの資本を割り当てられるようにする機会があります。これは、より生産的なイノベーションを刺激し、年金貯蓄者に大きなリターンをもたらす可能性があります。

政府は、英国の投資家がますます長期的な視野を持ち、成長投資が短期的な配当フローを生み出すことはあまりないことを理解するよう奨励する予定です。我々は、規制当局の手数料上限の対象となる手数料のリストから、設計の優れたパフォーマンスベースの手数料を削除する計画を通じて、これを支援しています。

本政府は、InnovateUKや、British Patient Capital、British Business Investments、Enterprise Capital Fundsなどの英国ビジネス銀行のイニシアチブを通じて、イノベーションと成長資金を直接支援し続け、これらを利用して英国内外の第三者金融機関による投資を最大化するよう努めます。

また、ロンドン証券取引所(LSE)が、デジタルテクノロジー企業の上場先として最適であることを引き続きアピールしていきます。2021年のLSEでのテック系IPOは37件で、オックスフォード・ナノポアやワイズといった世界をリードする企業も含まれています。デュアルクラス株を認める規則の変更、最低フリーフロートの10%への引き下げ、特別目的買収会社(SPAC)規則の変更と、より将来的な記述を可能にするための計画的な目論見書規則の変更を組み合わせ、LSEがハイテクIPOのための有力な取引所になることを確信しています。

3.5 英国全体:繁栄の拡大と平準化

私たちは、生産性の向上を加速するために、各地域の企業による最先端技術の導入に資金を提供することで、英国全体でデジタル技術の恩恵へのアクセスを向上させ、生産性とインクルージョンを向上させています。これは、イングランド北部の中小企業を後押しするために5億ポンド以上を投資するNorthern Powerhouse Investment Fundによって支えられています。誰も、そしてどこも、取り残されるべきではないのです。

私たちは、デジタル技術に関連するいくつかの政策分野が分権化されており、分権行政機関のデジタル戦略(スコットランドのデジタル戦略、ウェールズのデジタル戦略、北アイルランドのデジタル戦略)の対象になっていることを認識しています。私たちは、デジタル技術の恩恵が英国全土に行き渡るよう、各分権行政機関と協力することを約束します。この政府は、すべての人がデジタル経済の成功を分かち合えるよう、既存の労働力と将来の世代のためのスキルを提供することに投資してきました。

内閣府(CO)は、英国の調達法に全面的な改革を導入し、NHSを含む公的機関がテクノロジーソリューションの調達方法について、より柔軟で革新的なアプローチを取ることができるようになりました。これにより、イノベーションが促進され、中小企業が公的契約の入札に参加する際の障壁を取り除く機会が提供されることになります。

3.6 世界における英国の地位の向上

私たちは、同盟国と協力して、グローバルなデジタル貿易を促進し、自由と開放性を謳った貿易とガバナンスのシステムを開発し続けるつもりです。我々は、政府全体、特に外務・英連邦・開発局(FCDO)と国際貿易省(DIT)を通じて、デジタル輸出を促進し、新しい自由貿易協定にデジタル章(関税ゼロのデジタル貿易、信頼ある国境を越えたデータフロー、IPとソースコードの保護を含む)を設けるよう努力する。

現在の取り組みをベースに、中東、アジア太平洋地域、北米などの主要なターゲット地域に焦点を当て、英国のハイテク企業や英国のVCファンドへの対内投資を促進するための政府横断的な取り組みも行う予定です。私たちは、グローバルなテクノロジー企業がIPOを行う場所として、英国を推進しています。近々発表される国際技術戦略では、技術に関する英国の国際的な関わりをフレームワーク化する民主的な共通の原則を設定する。

英国は、国際電気通信連合(ITU)、人工知能に関するグローバル・パートナーシップ(GPAI)、経済協力開発機構(OECD)、国連インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)などの多国間およびマルチステークホルダー型の国際フォーラムにおいて、オープンネス、自由、マルチステークホルダー型アプローチがグローバル・テクノロジー・ガバナンスを確実に支えるよう主導的役割を果たす予定である。英国政府はまた、非常に複雑な研究開発プロジェクトや半導体のサプライチェーンの強靭性など、超国家的な協力から恩恵を受ける問題について、世界中の志を同じくする国々とパートナーシップを築くことを目指します。

なお、日英デジタルパートナーシップが、この文脈で紹介されているのは、興味深いです。

4 デジタル未来へのトラスフォーム(2022)

2022年6月9日に、内閣の中央デジタル・データ局(Central Digital & Data Office)から、「デジタル未来へのトラスフォーム(Transforming for a digital future: 2022 to 2025 roadmap for digital and data)」が公表されています。

この戦略は、2025年に向けた政府横断的な共通のビジョンと、それを達成するために私たちが取る一連の具体的な行動を通じてすべての人により良い結果をもたらす、より効率的なデジタル政府を実現するための政府の計画を示すものです。

  1. ミッション1:正しい成果を達成する、変革された公共サービス
  2. ミッション2: 政府のための1つのログイン
  3. ミッション3 より良いデータで意思決定を強化する
  4. ミッション4 効率的で安全、かつ持続可能なテクノロジー
  5. ミッション5 スケールアップしたデジタルスキル
  6. ミッション6 デジタルトランスフォーメーションを実現するシステム

の6つにわけて、具体的な活動がなされています。

4.1 正しい成果を達成する、変革された公共サービス

これは、政府サービスのトランスフォームを意味するということになります。これについてのブログは、こちらです。 

トップ75サービスの多くをそれに照らしてベースライン化しているとのことですが、そのサービスは、

労働省・年金局

  • ユニバーサルクレジットに移行する
  • 個人自立支援金の申請
  • 子供の養育費のケースをオンラインで管理する
  • 雇用・支援手当の申請
  • 求職者手当の請求
  • 公的年金を受給する
  • 公的年金の請求
  • 年金クレジットを請求する
  • Carer’s Allowance(介護手当)を請求する
  • 障害者生活手当(Disability Living Allowance for A Child)の請求
  • Maternity Allowance(出産手当金)を請求する
  • Attendance Allowance(出席手当)を請求する
  • Access To Workを申請する
  • 死別支援金の申請
  • 葬儀費用を請求する
  • 退職のための計画

歳入関税庁(HMRC)

  • 児童手当の申請または追加申請
  • 医療保険の給付と費用をHMRCに報告する
  • 所得税の確認または還付請求
  • セルフアセスメント税金の支払い
  • HMRCからの払い戻し請求(フォームP800)

ビジネス・エネルギー・産業戦略省

  • クイーンズ・アワード・フォー・エンタープライズの登録と申請
  • バイオマスサプライヤー登録、報告書提出、支払い手続き
  • 熱電併給品質保証への登録と設置データの提出
  • エネルギー効率に優れた製品の登録と申請
  • 家主のためのエネルギー効率最低基準の免除のための登録
  • 排出権取引レジストリの利用登録と温室効果ガス排出量の報告

ホームオフィス

  • 国境を越える
  • スキルドビザおよび学生ビザの申請
  • スタンダードビジタービザの申請
  • 基本的なDbsチェック(ディスクロージャー&バーリング・サービス)の申請
  • 英国パスポートの申請
  • 大人用パスポートの更新、更新、交換
  • EU Settlement Schemeへの申請
  • 入国管理局への入国審査と証明
  • 英国への定住申請が可能かどうか確認する
  • 出生/死亡証明書の請求(GRO)

ビジネス貿易省

  • 輸出サポートサービス(ESS)
  • Learn to Exportサービス
  • 国際貿易企業ライセンス(LITE)

外務・英連邦・開発局(Foreign, Commonwealth and Development Office)

トラベルアドバイスサービスを利用する

運輸省

  • 運転免許証の管理
  • 仮免許証の申請
  • デジタルタコグラフカードを申請する
  • 車の税金について

教育省

  • ナショナル・キャリア・サービスを利用する
  • 見習い制度の管理
  • 学校成績表の比較
  • 教職に就く
  • 学校に関する情報を得る

国防省

  • 兵役履歴の請求

学生ローン会社

  • 学生ローンの申し込み
  • 学生ローンの残高を管理する

法務省

  • 収容中の犯罪者の管理(NOMIS、囚人にお金を送る、刑務所にいる人を訪問する、Quantom交換など)
  • 地域社会の犯罪者の管理(OASys、Delius)
  • 法律扶助を受ける(CCMS、法律扶助を申請する)。
  • CJSにおける情報およびメールの安全な交換(CJSM / CJSE)
  • LPAを作成し、使用する
  • 暴力犯罪の被害者である場合の賠償請求(CICA Apply)

環境・食料・農村地域省(Department for Environment Food and Rural Affairs)
サービス

  • 鳥インフルエンザ感染症規制の免除を申請する
  • イングランドとウェールズのロッドフィッシングライセンスを購入する
  • 洪水リスク、警報、水位を確認する
  • 地方交付金と支払の申請
  • 化学物質登録と通知の提出と管理
  • 魚介類の英国漁獲証明書の作成
  • 大気汚染防止区域を走行するための費用
  • 輸出健康証明書の取得
  • 製品、動物、食品および飼料システムの輸入に関する当局への通知
  • 廃棄物運搬業者、ブローカー、またはディーラーとしてビジネスを登録または更新する

内閣府

  • 公務員年金の管理
  • 公務員の仕事に応募する
  • ラーニングキャンパスへのアクセス(学習とトレーニングの予約と追跡)
  • 国家安全保障審査サービス

レベルアップ・住宅・コミュニティ省(Department for Levelling Up, Housing and Communities)

  • 選挙人登録のサインアップ
  • 有権者カードの申請

となっています。

4.2 政府のための1つのログイン(OneLogin)

これは、人々が政府のサービスにアクセスするための、迅速かつシンプルで安全な方法を1つ構築することというものです。

2021年1月に政府デジタルサービス(GDS)により設立された政府横断的プログラムであり、人々がオンラインで政府のサービスにアクセスする際に、ログインして自分の身元を証明するための、単一でユビキタスかつシンプルな方法を提供するものになります。英国においては、単一のeIDが採用されていないので、このような仕組みを構築しようとしているのです。

 

4.3 より良いデータで意思決定を強化する

ミッション4 効率的で安全、かつ持続可能なテクノロジー
ミッション5 スケールアップしたデジタルスキル
ミッション6 デジタルトランスフォーメーションを実現するシステム

5 デジタル発展戦略(2024)

デジタル発展戦略が(もと)スナク政権のもとで発表されています(Digital development strategy 2024 to 2030、2024年3月)。全体の構成は、

  • 第1章 – はじめに:デジタル世界における開発の実践
  • 第2章 – デジタル変革:デジタル技術による経済、政府、社会の活性化
  • 第3章 – デジタルインクルージョン:デジタル世界における取り残しの防止
  • 第4章 – デジタル責任:安全でセキュア、かつ強靭なデジタルシステムの実現
  • 第5章 – デジタル持続可能性:気候および環境のためのデジタル技術の活用
  • 第6章 – デジタル開発の実現に向けたアプローチ

になります。

そこで、新たなデジタル開発戦略(DDS)2024年から2030年を通じて、目標としては、

  1. デジタル変革:デジタル技術を通じて経済、政府、社会を活性化する(経済・政府・社会)
  2. デジタル包摂:デジタルの世界において、誰も取り残されないようにする
  3. デジタル責任:安全でセキュアな、回復力のあるデジタル環境を実現する(オンラインセーフティ、データ保護・プライバシー、セキュリティ)
  4. デジタル持続可能性:気候変動と環境に関する目標を達成するためにデジタル技術を活用する

があげられています。また、優先分野としては

  1. ラストマイル接続
  2. デジタル公共インフラ(DPI)
  3. 人工知能
  4. 女性と少女

があげられています。

6 労働党政権におけるデジタル戦略

2024年7月に英国で、総選挙が行われ労働党が、単独過半数を獲得し、14年ぶりに政権を奪還しました。記事としては、こちら(BBC)

労働党は、産業戦略(Prosperity through Partnership:)を公表しています(2023年9月)。その後、政権を担当した後に、デジタル技術に関して国家戦略が明らかになったかというと、いまのところ、体系的な戦略は明らかになっていません。(なお、労働党は、「デジタル未来」に対して2020年に諮問をしています)。

技術に対する影響を論じる記事としては

があります。

6.1 国王のスピーチ

スピーチ

チャールズ3世の議会のスピーチです。The King’s Speech 2024

 

ですが、具体的な形で、デジタル社会等についてふれる内容は

最も強力な人工知能モデルの開発に従事する労働者に対して要件を課すための適切な法律の制定を目指します。

という記述がありますが、それ以外には、ないみたいです。Taylor Wessigによると

AI関連法案のように、スピーチ自体では言及されているものの、説明資料では法案としてリストアップされていないものや、説明資料ではリストアップされているものの、スピーチ自体では言及されていないものもありました。特にデータ保護とサイバーセキュリティに関する法案です。

とされています。

背景ノート

この演説の背景メモは、こちらです。

この背景メモは、具体的な準備されている法案が、柱ごとに記載されています。

  1. 経済の安定と成長
  2. 英国のエネルギーとクリーンエネルギーの大国
  3. 国境を守り、反社会的行為を取り締まり、街を取り戻そう
  4. チャンスへの障壁を取り除く
  5. 健康
  6. 国家安全保障と国家への貢献

このなかで、興味深いのは、「経済の安定と成長」における製品安全・計量法案(Product Safety and Metrology)、デジタル情報・スマートデータ法案のところと、「国家安全保障と国家への貢献」のところにおけるサイバーセキュリティとレジリエンス法案になるかと思います。これらを見ていきます。

6.2 製品安全・計量法案(Product Safety and Metrology)

製品安全・計量法案についてGov.UKの、この法案についてのページはこちらです

本法案は、製品規制における世界的リーダーとしての英国の地位を維持し、企業を支援し、消費者を保護する。これにより、英国は現代の安全問題に対処し、経済成長をもたらす機会を活用し、ハイストリートとオンライン市場の間に公平な競争条件を確保することができるようになることを目的としています。

英国の製品安全および計量の枠組みの大部分は、過去40年間に策定されたEU法に由来すところ、本法案により、更新されたEU規則を反映させるか、乖離させるかを主権的に選択できるようになることをねらいにしているとのことです。

法案の内容はについては、成長を支援し、規制の安定をもたらし、消費者保護を強化するものであるとして

  1.  英国がAIなどの技術進歩に歩調を合わせ、 e-bikeやリチウムイオン電池に関連する火災リスクなどの課題に対処できるよう、 新製品のリスクや機会に対応する 。
  2.  サプライチェーンにおける 新たなビジネスモデルを特定し、オンライン・マーケットプレイスなどの製品供給に携わる者の責任を明確にすることで、政府は消費者保護を強化し、消費者が購入する製品や購入する相手につ
    いて信頼できるようにする。
  3. 企業にとっての追加コストを防ぎ、規制の安定性を提供するために、適切な場合には、 CEマーキングを含むEU製品規制の新規または更新を承認するように法律を更新できるようにする。 本法案はまた、英国企業および消費者にとって最善の利益となる場合には、英国がEU製品規制の承認を終了できることを保証するものである。
  4.  現代のデジタル国境の課題を反映したコンプライアンスと執行の改善を可能にする 。本法案により、政府は以下のことが可能になる。

とが、あげられています。

6.3 デジタル情報とスマートデータ法案(Digital Information and Smart Data Bill)

これについては、政府は、経済成長のためにデータの力を確実に活用し、近代的なデジタル政府を支援し、人々の生活を向上させたいと考えているという認識をもとに、 法案は、

データの新たな革新的利用を安全に開発・展開することを可能にし、データ共有と基準を改革することで公共サービスをより良く機能させることで人々の生活を向上させ、データ法を改善することで科学者や研究者がより多くの生命を向上させる発見をするのを助け、規制当局(ICO)に新たな強力な権限とより近代的な構造を与えることであなたのデータが確実に保護されるようにする。

としています。前提知識としては、「スマートデータ・ロードマップ」が、2024年4月に公表されています。あと、データ保護およびデジタル情報法案については、こちら。

なので、国王のスピーチの附属文書からだと

本法案は、データの力を経済成長のために活用するものである。我々は、人々が参加することを選択でき、英国全体のイノベーション、投資、生産性を加速させる 3つの革新的なデータ活用を法定化する、として

  •  これは、革新的で安全な技術を通じて、人々の日常生活を容易にするものである。これらの措置は、認定されたプロバイダーによる、安全で信頼できるデジタル ID 製品およびサービスの創出と採用を支援するもので、引
    っ越し、雇用前チェック、年齢制限のある商品やサービスの購入などに役立つ。
  •  これは、 私たちの足下に埋まっているパイプやケーブルの設置、保守、運用、修理の方法に革命をもたらす新しいデジタル地図である。これにより、プランナーや掘削業者は、作業を効果的かつ安全に遂行するために必要
    なデータに、必要なときに、標準化された安全な方法で即座にアクセスできるようになる。
  •  スマート・データ・スキームを設定する。これは、 顧客の要求に応じて、承認された第三者プロバイダーと顧客のデータを安全に共有するものである。

としています。さらに

  1.  法案は、人々の生活と人生のチャンスを向上させる。 法案は、より多く、より良いデジタル公共サービスを可能にする。 デジタル経済法を改正することで、公共サービスを利用する企業に関するデータを政府が共有できるようにする。出生と死亡の登録は電子システムに移行します。また、医療・福祉システムのITサプライヤーに情報標準を適用します。

  2. 本法案は、 現代の学際的な科学研究の現実をデータ法に反映させることで、科学者が世界レベルの研究のためにデータをより有効に活用できるようにするものです。科学者は、科学研究の領域について広範な同意を求めることができるようになり、商業的な環境で科学研究を行う合法的な研究者が、我々のデータ体制を同等に利用できるようになる。

  3.  この法案により、あなたのデータは確実に保護されます。 我々はICOを近代化し、強化する。最高経営責任者(CEO)、取締役会、委員長を擁する、より近代的な規制機構に生まれ変わります。そして、より強力な権限を新たに持つことになります。この改革は、高水準の保護を維持するものの、現状では明確性に欠け、一部の新技術の安全な開発・展開を妨げている一部のデータ法について、的を絞った改革を伴う予定です。また、プライバシー、セキュリティ、インクルージョンに関するデジタル・アイデンティティの基準も推進する。

  4.  法案はまた、子どもの死に関する調査を支援するために必要かつ適切であると検視官(およびスコットランドの検察事務官)が判断した場合に開始できるデータ保全プロセスを確立する。これにより、検視官が子どもの死を調査する際に必要なオンライン情報にアクセスできるようになる

という記載があります。ですが、データアクセス法案が10月23日に明らかになりました。gov.ukは、こちら。  法文自体は、議会でみることができます。 目次をあげます


データ(使用とアクセス)法案 [HL]

パート 1 顧客データとビジネス データへのアクセス

序文

1 顧客データとビジネス データ

データ規制

2 顧客データに関連する規定を制定する権限
3 顧客データ: 補足
4 ビジネス データに関連する規定を制定する権限
5 ビジネス データ: 補足
6 意思決定者
7 インターフェース機関

執行

8このパートに基づく規制の執行
9 調査権限などの制限
10 罰金

料金などと財政支援

11 料金
12 賦課金
13 財政支援

金融サービス部門

14 FCA と金融サービス インターフェース
15 FCA と金融サービス インターフェース: 補足
16 FCA と金融サービス インターフェース: 罰金と賦課金
17 FCA と他の規制当局との調整

補足

18 損害賠償責任
19 規制の見直し義務
20 処理とデータに関する制限保護
21 このパートに基づく規則: 補足
22 このパートに基づく規則: 議会の手続きと協議
23 関連する従属立法
24 顧客データの提供に関する規定の廃止
25 その他の定義済み用語
26 このパートの定義済み用語の索引

パート 2 デジタル検証サービス(Digital Verification Service)

序論

27 序論

DVS トラストフレームワークおよび補足コード

28 DVS トラストフレームワーク
29 補足コード
30 補足コードの撤回
31 DVS トラストフレームワークおよび補足コードの見直し

DVS 登録

32 DVS 登録
33 DVS 登録への登録
34 DVS 登録への登録を拒否する権限
35 追加サービスの登録
36 補足注記
37 補足注記へのサービスの追加
38 登録、補足注記などの申請
39 登録、補足注記などの申請にかかる手数料
40 DVS 登録から人物を削除する義務
41 DVS から人物を削除する権限登録
42 DVS 登録からサービスを削除する義務
43 DVS 登録から補足メモを削除する義務
44 補足メモからサービスを削除する義務

情報ゲートウェイ

45 登録者に情報を開示する公的機関の権限
46 歳入関税庁によって開示される情報
47 ウェールズ歳入庁によって開示される情報
48 スコットランド歳入庁によって開示される情報
49 情報開示に関する実務規範

トラストマーク

50 登録者が使用するトラストマーク

補足

51 国務大臣の情報要求権限
52 第三者が機能を遂行するための取り決め
53 このパートの運用に関する報告書
54 このパートの定義用語の索引
55 身元またはステータスの確認に関連する権限

パート 3 全国地下資産登録

56 全国地下資産登録: イングランドおよびウェールズ
57 機器に関する情報: イングランドおよびウェールズ
58 全国地下資産登録: 北アイルランド
59 機器に関する情報: 北アイルランド
60開始前協議

第 4 部 出生および死亡の登録

61 出生および死亡の登録を保管する形式
62 地方自治体による機器および施設の提供
63 登録に署名するための要件
64 既存の登録および記録の取り扱い
65 軽微な修正および結果的な修正

第 5 部 データ保護とプライバシー

第 1 章 データ保護

この章で使用される用語
66 2018 年法と UK GDPR

UK GDPR および 2018 年法の定義

67 研究および統計目的の意味
68 科学研究の目的での処理への同意
69 法執行機関による処理への同意

データ保護の原則

70 処理の合法性
71 目的の制限
72 関連する国際法に依拠した処理

特別な種類の個人データの処理

73 要求に応答する選出された代表者
74 特別な種類の個人データの処理

データ主体の権利

75 料金および応答の理由法執行機関による処理に関するデータ主体の要求
76 データ主体の要求に応答する期限
77 データ主体に提供される情報
78 データ主体の要求に応じた検索
79 データ主体の情報に対する権利: 法律専門家特権の免除

自動意思決定

80 自動意思決定

法執行機関による処理のログ記録

81 法執行機関による処理のログ記録

行動規範

82 一般的な処理および行動規範
83 法執行機関による処理および行動規範

個人データの国際転送

84 第三国および国際機関への個人データの転送

研究などの目的での処理に対する保護措置

85 研究などの目的での処理に対する保護措置
86 第 85 条: 結果的規定

国家安全保障

87 国家安全保障の免除

諜報機関

88 諜報機関と管轄当局による共同処理
89 共同処理: 結果的改正

情報コミッショナーの役割

90 義務

91 個人データの処理に関する業務規定
92 業務規定:パネルおよび影響評価
93 委員長に対する明白な根拠のないまたは過剰な要求
94 実績の分析
95 委員長からの通知

執行

96 委員長による文書の提出要求権限
97 委員長による報告書の提出要求権限
98 評価通知:OFSTEDの制限の撤廃
99 面談通知
100 罰則通知
101 規制措置に関する年次報告書
102 データ主体による苦情
103 情報主体アクセス要求に関連する裁判手続き
104 EITSET規則の付随的な改正

禁止、制限、およびデータ主体の権利の保護

105 禁止、制限、およびデータ主体の権利の保護

その他

106 英国GDPRに基づく規則
107 データ保護に関するその他の軽微な規定

第2章 プライバシーおよび電子通信

108 PEC規則
109 PEC規則の解釈
110 個人データの違反に関するコミッショナーへの通知義務:期間
111 加入者または利用者の端末機器への情報の保存
112 緊急警報:期間の解釈
113 コミッショナーの執行権限
114 行動規範

第6部 情報委員会(The Information Commission)

115 情報委員会
116 情報コミッショナー職の廃止
117 情報委員会への機能の移管
118 情報委員会への財産等の移管

第7部 データの利用またはアクセスに関するその他の規定

保健および社会福祉に関する情報基準

119 イングランドにおける保健および成人向け社会福祉に関する情報基準

スマートメーター通信サービス

120 スマートメーター通信ライセンスの付与

公共サービス提供の改善に関する情報

121 事業者に対する公共サービス提供の改善を目的とした情報の開示

インターネットサービス提供者の情報保持

122 子供の死亡に関連するインターネットサービス提供者の情報保持

オンライン安全対策に関する研究のための情報

123 オンライン安全対策に関する研究のための情報

生体認証データの保持

124 生体認証データおよび記録可能な犯罪歴の保持
125 仮名化された生体認証データの保持
126 インターポールからの生体認証データの保持

トラストサービス

127 eIDAS規則
128 EU適合性評価機関の承認
129 EU規格等の承認の取り消し
130 海外のトラスト製品の承認
131 監督当局と海外当局の協力
132 期間:eIDAS規則およびEITSET規則

第8部 最終規定

133 結果的修正を行う権限
134 規則
135 適用範囲
136 発効
137 移行、経過、および救済規定
138 略称

—-

となっています。データ保護およびデジタル情報法案とかなり規定がダブってくるところもあり、今後、どのような形でいくのかは、みえないところです。ここの条文をみていくのは、またの機会(もしくは、調査の機会-依頼お待ちしています)にしたいとおもいます。

6.4 サイバーセキュリティとレジリエンス法案

この部分は、

法案は、英国のサイバー防衛を強化し、重要なインフラと企業が依存するデジタル・サービスの安全を確保する。

として

  • 例えば、既存の規制の範囲を拡大し、規制当局をより強固な立場に置き、サイバー脅威の政府内におけるより良い状況を構築するために報告要件を増やすなどである。
  •  英国の既存の規制は、 EUから引き継いだ法律を反映したものであり、英国唯一の分野横断的なサイバーセキュリティ法制である。この規制は現在、 EUに取って代わられており、わが国のインフラと経済が比較にならないほど脆弱にならないよう、英国でも早急に更新する必要がある。

という認識をベースにしています。 同法案は、従来の規制の枠組みを以下のように大幅に更新するとして具体的には、:

  •  より多くのデジタルサービスやサプライチェーンを保護するために、規制の範囲を拡大する。 これらは、攻撃者にとってますます魅力的な脅威のベクトルとなっている。この法案は、私たちの防衛のギャップを即座に埋め、ロンドンの病院に影響を与えた最近のランサムウェア攻撃のような、英国の重要な公共サービスが経験した同様の攻撃を防ぐでしょう。
  •  必要不可欠なサイバー安全対策が確実に実施されるよう、規制当局を強力な足場に置く。 これには、規制当局にリソースを提供するための潜在的なコスト回収メカニズムや、潜在的な脆弱性を積極的に調査する権限の提供などが含まれる。
  •  企業が身代金を要求された場合を含め、 サイバー攻撃に関するより良いデータを政府に提供するため、インシデント報告を増やすことを義務づける。規制対象事業体が報告しなければならないインシデントの種類と性質を拡大することによって、潜在的な攻撃を受ける可能性がある。

としています。Gov.UKの、この法案についての予告でも上述の事項がのべられています。

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