米村滋人編「デジタル技術と感染症対策の未来像」に高橋郁夫の「公衆衛生とプライバシーのもつれ-プライバシーの経験主義的分析がプライバシー法制の解釈にあたえる意味」が掲載されました。
プロジェクトの全体
表紙は、こんな感じです
この本は、科学技術振興機構の社会技術研究開発センター(RISTEX)に採択された「携帯電話関連技術を用いた感染症対策に関する包括的検討」の成果の一端ということができるかと思います。
まさに「包括的研究」ということで、いろいろな立場の研究者の方が一緒に議論した成果になります。所収されている論文は、
- 1. デジタル環境における説明と同意……尾藤誠司
- 2. スマートフォンを用いた感染症対策と通信の秘密との関係 ……溝端俊介
- 3. 公衆衛生とプライバシーのもつれ ――プライバシーの経験主義的分析がプライバシー法制の解釈にあたえる意味 ……高橋郁夫
- 4. 見えない感染を追う技術 ――感染症危機管理における技術革新とその評価……奥村貴史
- 5. CIRCLE 法を用いた接触リスク把握システムのPIA(プライバシー影響評価)について……坂下哲也
- 6. 公衆衛生のためにデジタル技術を活用できる住民目線のヘルスシステム ……佐藤大介
- 7. 携帯電話関連技術の感染症対策としての今後の活用に向けて ……藤田卓仙
となっていて、執筆者の背景、アプローチがまさに多様性をなしていることがわかるかと思います。私は、このチームのなかで、利用者の技術の受容に関するコンジョント調査の設計とかのお手伝いをさせていただいたのも、非常に勉強になりました。その成果は、採択が決まっており、近いうちに、お披露目できるかと思います。
でもって、私の執筆しました
公衆衛生とプライバシーのもつれ ――プライバシーの経験主義的分析がプライバシー法制の解釈にあたえる意味 ……高橋郁夫
になりますが、この原稿は、
コンタクトトレーシングアプリケーションは、公衆衛生の目的のために、プライバシーに関する情報を取り扱うが、公衆衛生の目的のために、そのような取扱いをなす必要が生じたことは、いままでにあまり例を見なかったということができる。そうだとすると、このような公衆衛生目的のために取り扱うということが、プライバシーの懸念にどのような影響を与えて、ひいては、そのアプリの受容にどのような影響を与えるのか、という疑問が生じている
という認識の上に、
世界的には、コンジョイント方式を利用して新規技術とプライバシー懸念とのトレードオフを考察する手法が一般化しつつあるし、また、感染症対策における利益のトレードオフ(感染症対策とプライバシー)についての測定を試みる手法も注目をあびているということがいえる。
として、その文献を整理してみること、そして、そのうえで、コンジョイント方式を用いてプライバシー懸念を経験主義的な手法を用いて測定することをベースにして、そのような見識を、プライバシーやデータ保護を巡る法規制の立法や解釈に役立てることができるのではないか、ということについての考えを論じたものになります。
このようにプライバシーについての懸念を実験によって測定し、それをもとに立法論・解釈論を考えるというアプローチは、きわめてユニークなのではないかなあと自負しているところです。
まあ、日本で評価されないのは、仕方がないのですが、そうはいっても、50年後には評価されるようになっていてもらいたいなあという感じです。
第3部 オンライン座談会「デジタル感染症対策の未来像」について
なお、同書の第3部には、オンライン座談会「デジタル感染症対策の未来像」が所収されておりまして、山本龍彦先生から、コメントを頂戴しています。個人的には、いろいろといいたいところがあるのですが、それは、次のエントリで。(なお、「山本龍彦先生の「情報自己決定権の現代的な課題」でブログをとりあけていただきました」というエントリでもふれたところであります)