NBL 1107号 24頁に 角田篤泰「人工知能の発展と企業法務の未来」(1)が掲載されています。
まず、この論文は、人工知能技術とは何か、ということをきちんと理解していることを前提に、具体的な企業法務への展開にふれてようとしている点で、他にない論考かとおもいます。高橋が、今年の11月29日に「人工知能は法務を変える?」としてシンポジウムで問いかけようとしている論点とまさにシンクロするものといえるでしょう。
(なお、同様のテーマに自由と正義(2017年9月号) 「AI時代における知的職業-弁護士業務の行方-」がありますが、技術的な背景との分析に勝る点で、角田論文のほうが分析する価値は高いというのが私の意見です)
1107号の内容は
はじめに
(1)AIの今昔
「「昔のAI」については、論理式などによる関連知識の情報を与えることで解いていた」としています。これは、前にふれた私のチャットボットって人工知能なの、という話ででてくる、昔ながらのエキスパートシステムということになるかとおもいます。
これに対して、「今のAIでは、ルール不要である。つもり、専門知識を参照しない。大量のデータを統計的に観測することで、問題に対する解のパターンを導く(モデルを学習する)のである」としています。
この違いについて、角田は「ルールを考案する速度に比べて、驚異的な速度でデータ量は増えてしまうので、人間がルールを作成して解を得るより、コンピュータがデータから直接に解を導いたり、自動でルールを作成した
りするほうが得策という時代に入ったのである」と述べています。
(2)法律AIの問題点
昔のAIに基づいた研究・活動を「レガシー法律AI」と読んで、問題点を列挙しています。具体的には
データ不足
構成主義的傾向
司法偏重の応用領域
高度な対象法令
オープンテクスチャア
例外・関連性
高階表現
説明がないと困る
法律学はそもそも統計的・定量的ではない。
データ自体に解釈を含む
大量データの修習
言語・記号との連動
分野ごとのパラメータの調整が必須
ホスピタリティや責任は人の担当
AI法務自体の法的問題
となっていて、そのあとの続編となっています。
ちなみに、脚注も充実しています。
個人的には、チャットボットの経験から、離婚・相続・債務・交通事故(あと不動産)あたりに限って、例外を無視して、とりあえず、人間の補助として「昔のAI」を使う仕組みを発展させていくのが合理的ではないか、と考えています。
(アカデミアでなければ、将来の根本的革新より、今日の効率化のほうが価値があるという判断かもしれません)
角田教授のあげる問題のうち、データ不足、構成主義的傾向、司法偏重の応用領域(だって、裁判所に行く前を「法務」というので)、高度な対象法令(離婚だと条文は、「破綻」くらいしかないでしょ)、例外・関連性(例外は、弁護士が説明すればいいです)、 高階表現(これも他の条文を引っ張ってくるような面倒なのは、弁護士が説明すればいいです)、 説明がないと困る(伝統的な解法は、人間が考えるので問題なし)などの問題は、無視できるようになります。
法律学はそもそも統計的・定量的ではない、データ自体に解釈を含む、オープンテクスチャア、言語・記号との連動 とかは、「言葉」をつかったコミュニケーションから切り離せないので、宿命ですけど、人間の生活のなかで、言葉のかかわるものってそんなものなので、そんなもののレベルでもいいかとおもいます。
なので、どうせ、AIの基礎となっている統計学だって、20年に1回は、収穫の予測がはずれるので、そんな年は、許してね、という話で始まっているはずなので、それに比べれば、分野を絞って、古典的なAIをリファインするというのは、おもしろいのではないかと考えています。(たとえば、破綻という言葉の解釈に、いろいろな事例をぶち込んで、データを分析すると、その判断に影響を与えている特徴量がわかるよねなんてのもおもしろいような気がします。)