宇宙活動と国際法の関係-ウーメラマニュアル翻訳

ブログでは、
宇宙ドメインと国際法-McGillマニュアル(ルール編)翻訳

を紹介しましたが、本年の4月に、Woomeraマニュアルも発売されています。

ウーメラマニュアルにおけるルールの翻訳をしてみます。内容としては、第1部 軍事宇宙活動と 第2部 緊張時における軍事宇宙活動にわかれています。

内容においては、国際法の一般的な解釈で、法源となっているところをまとめたような感じがしています。みたところ、新規なコメントをするところは、ないようにおもうので、コメントは、パスしたいとおもいます。McGillマニュアルとの比較とかは、意味があるかもしれませんが予算でも降ってきたらやってみたいとおもいます。

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第1部 平時における軍事宇宙活動(Military Space Activities during peacetime)

ルール1 使用、アクセス、探査、および科学調査の自由と協力の原則 

国家は、月その他の天体を含む宇宙空間を自由に利用し、探査し、及び科学的調査に自由に従事する権利並びに月その他の天体のすべての領域に自由にアクセスする権利を有する。宇宙条約(OST)における特定の制限を条件として、国家は軍事活動と民間活動の区別なくこれらの権利を享受する。

ルール2 宇宙空間および天体の不使用

月およびその他の天体を含む宇宙空間は、使用または占領の手段、あるいはその他のいかなる手段によっても、国家による主権の主張による使用(appropriation)の対象とならない。 月およびその他の天体を除く宇宙空間における資源の開発または採取の合法性については、未確定である。

ルール3 宇宙空間における平和目的

宇宙空間の探査及び利用に従事する国は、国連憲章の不法な武力による威嚇又は武力の行使に関与しない義務を含む国際法を遵守しなければならず、したがって、宇宙空間の平和的(すなわち、非侵略的-non-aggressive)な探査及び利用にのみ従事しなければならない。

ルール4 天体上での特定の軍事施設および活動の制限

国家は、月その他の天体を専ら平和的目的のために利用するものとし(すなわち、非侵略的利用のみに従事するものとし)、月その他の天体において、軍事基地、施設及び要塞の設置、あらゆる種類の兵器の実験並びに軍事行動の実施という特定の軍事活動を行ってはならない。

ルール5 大量破壊兵器

a) すべての国家は、以下が禁止される:

  1. 核兵器その他のいかなる種類の大量破壊兵器を搭載した物体を地球周回軌道に投入すること、
  2. 核兵器またはその他のいかなる種類の大量破壊兵器を天体に設置すること、
  3. 核兵器その他のあらゆる種類の大量破壊兵器を、その他の方法で宇宙空間に設置すること。

(b) さらに、大気圏内、宇宙空間および水中における核兵器実験を禁止する条約(PNTB 条約)の各締約国は、外宇宙を含む大気圏の限界を超えて、自国の管轄および管理下にあるいかなる場所においても、核兵器の実験爆発またはその他の核爆発を禁止し、防止し、実施しない義務を負う。

ルール6  軍事宇宙活動と情報収集

宇宙からの、宇宙への、および宇宙空間内での情報収集を目的とする軍事宇宙活動は、収集の具体的手段または方法が適用される国際法的義務に違反しない限り、禁止されない。

ルール7 管轄権

国家は、登録された宇宙物体およびその要員に対する管轄権および管理権を保持し、また、宇宙空間または天体にいるすべての国民(自然人および法人を問わない)に対する管轄権を保持し、さらに、国際法上認められたその他の基地において、その他の人物、宇宙物体および活動に対する管轄権を保持する。

ルール8 宇宙物体の登録

宇宙物体を地球周回軌道又はそれを超える軌道に打上げる国又は国の一つは、軍事的宇宙活動又は作戦に使用される宇宙物体を含め、その宇宙物体を、その国が維持する適当な登録簿に記載することをもって登録しなければならず、かつ、その登録簿に記載された各宇宙物体に関する特定の情報を国際連合事務総長に提供しなければならない。

ルール9  宇宙物体の所有権

宇宙空間に打ち上げられた民間及び軍用の物体の所有権は、宇宙空間又は天体上に着陸し又は建設された物体、識別情報及びその構成部品の所有権を含む。

ルール10 宇宙空間における国家活動に対する国家の責任

国家は、軍事宇宙活動を含む宇宙空間におけるすべての国家活動に対して国際的責任を負い、そのような活動が政府機関によって行われるか非政府機関によって行われるかを問わず、そのような活動が国際法に適合することを確保し、また、そのような活動を承認し、継続的に監督することを要求される。

ルール11 国際機関の責任

軍事空間活動を含む活動が国際機関によって宇宙で実施される場合、宇宙条約(OST)および国際宇宙法全般の遵守に関する責任は、当該国際機関および当該機関の加盟国である宇宙条約締約国の双方が負うものとする。

ルール12  宇宙物体による損害に対する国際責任

宇宙空間に物体を発射し又は発射を調達する国及び物体がその領域又は施設から発射される国は、地球上、空中又は宇宙空間において当該物体又はその構成部品によって他の国又はその自然人若しくは法人に生じた損害について国際的責任を負う。発射国は、その宇宙物体が地表または飛行中の航空機に与えた損害について、補償金を支払う絶対的責任を負う(absolutely liable)。一の打上げ国の宇宙物体又は当該宇宙物体に搭乗している人若しくは物に、一の打上げ国の宇宙物体によって損害が生じた場合、打上げ国は、その損害が自己の過失又は自己が責任を負う者の過失による場合に限り、責任を負う。

ルール13  宇宙飛行士及び宇宙船の要員

(a) 国家は、事故、遭難、緊急着陸又は不時着が発生した場合には、宇宙船の軍人及び民間人に対し、可能な限りの援助を与えなければならず、かつ、これらの者を安全かつ速やかに関係する発射当局の代表者に返還しなければならない。

(b) 国家は、月その他の天体を含む宇宙空間において、軍用又は民間の宇宙飛行士の生命又は健康に危害を及ぼすおそれのある現象を発見した場合には、直ちに他の国又は国際連合事務総長に通報しなければならない。

ルール14 有害な汚染の回避

軍事宇宙活動を含む宇宙活動の実施において、国家は、宇宙空間の有害な汚染及び地球外物質の持ち込みに起因する地球環境の有害な変化を回避しなければならない。

第 15 ルール 月及びその他の天体上の施設への訪問

事前の通告と協議に従い、国家は、相互主義に基づき、月およびその他の天体にある他国のすべての施設、設備、機器および宇宙船を訪問することが許される。これには、軍事要員が使用する施設、または軍事要員が月その他の天体に存在する施設も含まれる。

第 II 部 緊張/危機時(Tension and crisis)における軍事宇宙活動

ルール 16  地域(Zones)

国家は、自国の宇宙物体の周囲その他宇宙空間または天体上において、特定の地域を指定す ることができる。ただし、このような指定は、他の国が国際法上有する権利を制限するものではなく、他の国に追加の法的義務を課すものではなく、非占有原則を含む国際法上の他のルールに違反するものではなく、指定国に追加の権利を与えるものでもない。

ルール17 相当の留意(Due Regard)

国家は、軍事宇宙活動を含むすべての宇宙活動を、他の国の対応する利益に十分配慮して行わなければならない。

ルール18  有害な妨害

(a)国家は、他の国による宇宙空間の平和的な探査及び利用に有害な干渉を及ぼすおそれがあると信じるに足りる理由がある宇宙空間における国家的活動を進める前に、適切な国際協議を行うものとする。

(b) 他国の宇宙空間における国家活動が自国の宇宙空間の平和的探査及び利用に潜在的に有害な干渉をもたらすと信じる理由がある場合には、国家は、協議を要請しなければならない。

ルール19 ITU有害な電波障害

a)国際電信電話連合(ITU)の会則およびルールに基づき、かつ(b)項に従うことを条件として、国家は、いかなる国のITUに準拠した無線サービスまたは通信(宇宙空間から、宇宙空間へ、または宇宙空間内での通信を含む)に対しても有害な干渉を引き起こしてはならず、かつ、その運用機関が有害な干渉を引き起こさないようにしなければならない。

(b) 国家は、ITU 憲章およびルールの下で、軍事無線施設を利用する完全な自由を保持するが、遭難時に援助を与えること、および軍事通信(宇宙への、宇宙からの、または宇宙空間内の通信を含む)のために使用される施設が有害な干渉を引き起こすことを防止することに関する ITU の義務に可能な限り従わなければならない。

(c) このITUに基づくルールは、軍事宇宙活動における電磁スペクトルのいかなる部分の国家による使用に関する他の国家間の法的義務の適用を妨げるものではない。

ルール20  不介入の原則

国家は、軍事宇宙活動を含め、不介入原則の違反となる他国に対するいかなる活動も行ってはならない。

ルール21 武力の行使(Use of Force)

国家は、国連憲章に違反し、軍事宇宙活動を含め、他国に対する武力行使となるいかなる活動も行ってはならない。

ルール22 武力による威嚇(Threat of Force)

国家は、国連憲章に違反して、武力による威嚇となる軍事宇宙活動を含む活動をしてはならない。

ルール 23 武力攻撃

いかなる国も、国連憲章に違反する武力攻撃を構成する活動を、宇宙から、宇宙へ、または宇宙において行ってはならない。

ルール 24  報復(Retorsion)

国家は、報復に当たる宇宙活動に従事することができる。

ルール25 対抗措置(Countermeasures)

国家は、他国が自国に対して行った国際的に不正な行為に対し、軍事的宇宙活動を含む対抗措置をとることができる。

ルール26 自衛(Self-Defence)

国家は、自国に対する武力攻撃を構成する宇宙からの、または宇宙空間内での行動を含むいかなる行動に対しても、固有の個別的自衛権を行使することができ、急迫の武力攻撃に対しての予測的自衛権(anticipatory self-defence)の行使をおこなうことができる。

ルール27 集団的自衛権

国家は、被害国の要請があれば、他国に対する現実の又は急迫の武力攻撃に当たる宇宙からの又は宇宙空間内の行動を含むいかなる活動に対しても、固有の集団的自衛権を行使することができる。

ルール28 集団安全保障措置

(a) 国際連合安全保障理事会は、軍事的宇宙活動を含む活動が平和に対する脅威、平和に対する侵害又は侵略行為に当たるかどうかを決定することについて広範な裁量権を有し、国際連合憲章第七章に基づき責任国に強制措置を課すことができる。

(b) 国際連合安全保障理事会は、国際連合憲章に従い、国際の平和及び安全の維持を目的とする軍事宇宙活動を許可することができる。

ルール29  国際的武力紛争

国際武力紛争は、国家間で武力による対抗が行われる場合には、宇宙から、宇宙へ、宇宙内で、宣戦布告がなされた場合であれども、いつでも存在する。

ルール30 非国際的武力紛争

非国際的武力紛争は、国家と一つ以上の組織的武装集団との間又は国家の領域内において組織的武装集団との間に十分な激しさの武力による暴力が発生する場合にはいつでも存在する。

国の領域内で発生した地上的な非国際的武力紛争が、宇宙からの、宇宙への、又は宇宙内での軍事作戦を含む限りにおいて、非国際的武力紛争に関する武力紛争法の関連ルールがそれらの作戦に適用される。

ルール31  攻撃

「攻撃」とは、武力紛争の過程における軍事的宇宙作戦を含む軍事的作戦の文脈における敵対者に対する暴力行為をいい、攻撃であるか防御であるかを問わない。

ルール32 区別(Distinction)

文民及び文民の物の尊重及び保護を確保するため、武力紛争の当事国は、常に、文民と戦闘員との間及び文民の物と軍事目標との間を区別しなければならず、したがって、軍事作戦(軍事空間における作戦を含む)は、軍事目標に対してのみ行わなければならない。

ルール 33 敵対行為への直接参加

文民は、敵対行為に直接参加しない限り、軍事宙域作戦を含む武力紛争の間、攻撃からの保護を享有する。

ルール34 軍事目標

軍事目標は、軍事宇宙活動を含む武力紛争時における軍事活動における合法的な目標である。軍事目標とは、その性質、位置、目的又は使用によって軍事行動に有効に寄与し、かつ、その時の状況においてその全部又は一部の破壊、捕捉又は無力化が軍事上明白な利益をもたらすものをいう。

ルール35 医療部隊及び宗教要員

武力紛争における軍事行動の過程において(軍事的宇宙作戦を含む)、医療ユニット及び宗教要員は、その所在の如何を問わず、すべての文民に与えられる攻撃からの保護に加えて、特別の保護を享有する。

ルール36  検証(verification)

武力紛争における攻撃を計画し、又は決定する者は、軍事的空間活動を含む攻撃について、 その目標が軍事上の目的であり、且つ、特別の保護の対象でないことを確認するため に、実行可能なすべてのことを行わなければならない。

ルール 37 攻撃の手段及び方法の選択

軍事的宇宙活動を含む武力紛争における軍事作戦中に攻撃を計画し、決定し、又は実行する者は、次のことをしなければならない:

(a) 攻撃の手段及び方法の選択について、実行可能なすべての予防措置をとらな ければならない。

(b) 同様の軍事的利益をもたらす軍事目標のうちから、文民の生命、文民の傷害及び文民の物件に対する偶発的な損失を回避し、又はいかなる場合にも最小化することを目 的として、選択しなければならない。

ルール38 攻撃における比例性

武力紛争の当事国は、軍事的空間作戦を含む攻撃であって、具体的かつ直接的に予想され る軍事的利益との関係で過大となるような、文民の生命の付随的損失、文民の傷害、文民の物の損害又はそれらの結合を生ずると予想されるものを行ってはならない。

ルール39  攻撃の停止または中止(Suspension or Cancellation)

軍事的空間作戦を含む攻撃を含む武力紛争における攻撃は、以下のことが明らかになった場合には、停止または中止されなければならない

(a) 攻撃の対象が軍事目標でないか、又は特別の保護の対象であること。

(b) その攻撃が、予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との関係で過大な文民の生命の付随的損失、文民の傷害、文民の物の損害又はこれらの結合を生ずると予期されるとき。

ルール40  警告(Warnings)

軍事的宇宙活動を含む武力紛争における軍事行動の間においては、事情が許さない場合を除き、文民に影響を及ぼすおそれのある攻撃については、効果的な予告をしなければならない。

ルール41  攻撃の影響に対する予防措置

武力紛争の間及び武力紛争の前においては、国家は、その支配下にある文民、文民個人及び文民の物を軍事的宇宙活動の結果生ずる危険から保護するため、実行可能な最大限の範囲内において、必要な予防措置をとらなければならない。

ルール42 一般的な戦争の手段及び方法

(a)宇宙から、宇宙へ、または宇宙内での戦争の手段および方法は、次の場合に禁止される:

  1. 適用可能な条約または国内慣習法の下で特に禁止されている場合。

2 武力紛争法が要求する特定の軍事目標に向けることができない場合、又は武力紛争法が要求する制限若しくは管理をすることができない効果を生じさせる場合であって、 その結果、軍事目標と文民目標とを区別することなく攻撃する性質を有する場合。

(b) 戦争の手段及び方法の使用は、不必要な苦痛又は不必要な傷害を与える性質を有するものを含め、禁止する。

(c)軍事的宇宙活動を含む軍事活動における新しい武器手段又は戦争方法の研究、開発、取得又は採用において、追加議定書 l の締約国は、その使用が一部又はすべての状況において追加議定書 I 又は他の適用ある国際法によって禁止されるかどうかを決定する義務を負う。

ルール43  自然環境(Natural Environment)

(a) 第一追加議定書の締約国は、軍事宇宙作戦を含む軍事作戦において、自然環境に広範かつ長期にわたる深刻な損害を与えることが意図され、又は予測される戦争の手段又は方法を使用することを禁止される。

(b) 国家間のコンセンサスはないが、軍事宇宙作戦を含む軍事作戦において、国家は自然環境を保護する観点をももって武力紛争法を適用すべきであるという命題に対する支持は存在する。

ルール44 背信行為(Perfidy)の禁止

軍事宇宙作戦を含む武力紛争中の軍事作戦の遂行において、背信行為に訴えて敵対者を殺傷することは禁止されている。敵が武力紛争法のルールによる保護を受ける権利を有し、又は与える義務を負うと信じるよう誘引し、その信頼を裏切ることを意図する行為は、背信行為に該当する。ただし、戦争の策略(ruses of war)は禁止されていない。

ルール45 標章 (Markings)の不当な使用

(a) 軍事的宇宙活動のために適切な技術が開発され、それが採用されることを条件として、宇宙における国際的武力紛争の間、国家は、次のものを使用してはならない:

    1. 敵の国家標識または軍事標識。
    2. 紛争当事国でない国の国家標識又は軍事標識。

(b) 宇宙における国際的武力紛争及び宇宙における非国際的武力紛争のいずれにおい ても、軍事的宇宙活動のために適当な技術が開発され、かつ、採用されることを条件として、国家は、次のものを使用してはならない:

    1. 国際的に承認された防護標識、標識又は信号をその意図された目的以外に使用してはならない。
    2. 国際連合の特徴的な紋章は、国際連合が認める場合を除く。

ルール46  一定の注意(Constant Care)

追加議定書 l の締約国は、軍事的宇宙活動を含む軍事作戦の実施に当っては、文民、文民個人及び文民の物を損なわないように常に注意を払わなければならない。

ルール47  交戦的復仇( Belligerent Reprisals)

交戦的報復となる国際的武力紛争中の軍事行為(宇宙での軍事作戦中の行為を含む)は、厳格な条件の下での限られた例外を除き、被保護物及び被保護者に対して禁止する。

ルール48 宇宙空間における中立

中立法の基本原則は、国際武力紛争中の軍事宇宙活動にも適用されるが、宇宙から、宇宙へ、または宇宙内でのこれらの原則の正確な適用は、まだ決定されていない。

 

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