プライバシーの実証分析に関して、わが国で、きわめて先端的な分析をされている高崎さんから、新しい論文のご紹介を受けました。
「パーソナライズド・サービスに対する消費者選好に関する研究-プライバシー懸念の多様性に着目した実証分析」です。
米国における調査と比較したときにて、わが国では、全くといっていいほど注目されていない(無視されているといっていいほどの)「プライバシの実証的分析」という分野ですが、この分野に関するきわめて注目すべき論考です。
特徴としては、
(1)手法として、アンケート設問方式を採用していること、具体的なサービスの利用に関するおすすめにどのような要因が関連しているかを調査していること、いわゆるSEM(Structural Equation Modeling 構造方程式モデリング-共分散構造分析)によること
(2)結論として、
ア)過去の経験やリテラシー、利用者の個人属性が、プ ライバシー懸念3要因(潜在的不安、情報開示抵抗感、二次利用侵害懸念)に影響を及ぼしている。
イ)利用者のプライバシー懸念が利用者のサービス利 用意向に影響を与えている。その際、サービス利用 意向への影響度合いは利用するサービスの種別ご とに異なる。
という仮説が検証されています。
「プライバシーポ リシーの認知度は懸念の強さに影響を与えないこと」という興味深い説が、検証されているのも注目です。では、今の法規制はなんなの(ファンタジーだよね-「本研究はプライバシ ーポリシーが逆作用的に機能する場合」もあることを明らかにしています。EUは、プライバシ保護が、EC利用を推進させるとかいっているけど、証拠は反対だよね)というつっこみもできたりします。
(3)感想として
非常に興味深い論文です。これだけ刺激を与えてくれる論文はなかなかないのではないでしょうか。わが国でも、プライバシーの実証研究が盛んになるといいと思います。
ただし、自分としては、いわゆる質問紙法は、プライバシの研究に関して、限界が露呈するという立場です。高崎論文でも「プライバシ ーを巡る消費者選好は、サービス提供されているコン テキスト(場所、時間、利用シーン、制度環境等々) に大きく依存」といってますが、この利用された質問自体が、プライバシー懸念のサービスの受容に与える結論を先取りして、実際の行動/心理と離れる可能性があるのではないかと批判される可能性があるかと思います。
なので、さらに、コンジョイント法などで新たな枠組みを明らかにする余地が大きく残されているといえるかと思います。私も頑張りたいです。
実験手法に関していうと、むしろ、質問紙法としては、各サービスのおすすめ度を個人的には、被説明変数として、TAM的なモデルを作って、それにプライバシー懸念の与える影響を見ていくほうがしっくり来たりします。IPAでやった 「eID に対するセキュリティとプライバシ に関するリスク認知と受容の調査報告」の 方法になりますが。
(4)ちなみに
ちっと検索したら、 「パーソナルデータ利活用の個人の諾否に影響を与える要因に関する分析」は、プライバシーの分析にコンジョイントを利用する意向を表明していますし、私と岡田先生の論文とかを引用してくれたりします。興味深いです。実際の実験には、いたっていないようですが、成り行きが大注目です(ただし、このような実験の重要性は、なかなか理解されないのが悲しいですが)。