宇宙法セミナー 「宇宙開発利用の現在地と広がる法曹の役割」とGPS妨害・宇宙領域防衛指針

第一東京弁護士会の総合法律研究所 30周年記念企画 宇宙法セミナー 「宇宙開発利用の現在地と広がる法曹の役割」(令和8年1月9日)で「宇宙安全保障とサイバーセキュリティ」についてのお話しをします。

第一東京弁護士会でのホームページでの告知は、このページです(https://www.ichiben.or.jp/news/oshirase/event/2025111329743.html)。

チラシは、こんな感じです

でもって、具体的な話の構成としては

  • 宇宙安全保障の概念と注目の高まり
  • 宇宙安全保障に対するリスクマネジメント
    • リスク
    • マネジメント
  • 宇宙安全保障のための法的枠組
  • 課題(Challenges)

という形でお話ししていくことになるかと思います。

私のブログでは、昨年 日経 宇宙の未来2024でお話したさいに「宇宙サイバーセキュリティのバージョンアップ」をまとめています。そこでは、いままでの宇宙関係のブログをまとめているとこでもあります。基本的には、それらを上記のように構成し直してお話しをすることなります。が、若干、2025年にも注目すべき事項がありますので、そのアップデートをしたいと思います。

アップデートの事項としては、ロシアのGPS攻撃と日本における宇宙に関する政策の発展になるかと思います。

1 ロシアのGPS攻撃

宇宙サイバーセキュリティの事件簿で、

このような図を使うわけですが、一連のロシアのGPS攪乱作戦を加えておくのが妥当かと思います。これは、

ロシアが、ヨーロッパ各地でGPS信号の妨害(ジャミングやスプーフィング)を行っているとされ、航空機や船舶の安全航行に深刻な影響を与えている

という事件です。航空機への妨害等なのではありますが、しかしながら、GPS信号という宇宙システムからの航空機への通信なので、宇宙サイバーセキュリティ事件簿の範囲に入るわけです。

これらは、ロシアのハイブリッド戦争の一環としてとらえられています。これについては、大きな事案としては、

  1. フィンランド・バルト海における一連のGPS妨害事件(2022-)
  2. ブルガリア-航空機妨害(2025年8月)

をあげておきます。

1.1フィンランド・バルト海一連のGPS妨害事件(2024が中心)

これは、2022年以降、フィンランド国境付近やバルト海でGPS妨害が急増。  2024年にはフィンランド交通通信庁(Traficom)が約2,100件の航空機からのGPS障害報告を受け、前年の200件余りから大幅に増加。- 航空機の着陸不能や船舶の航路逸脱など、民間交通に直接的な影響が出ているというものです。

これについては、東ヨーロッパ領域で、GNSS/GPSに対する妨害が相次ぎ、2024年4月には、フィンエアが、エストニア(タルトゥ)への飛行を取りやめるなどの障害が発生していたところ(ロイターの記事)、2024年10月にフィンランドの内務大臣が、これらの妨害は、ロシアに帰属しうるとして非難しています(ロイター記事)

1.2 ブルガリア-航空機妨害(2025年8月)

これは、2025年8月31日に 欧州委員長フォンデアライエン氏を乗せた航空機がブルガリアでGPS妨害を受けたという事件です。 これについては、「欧州委員長の搭乗機にGPS妨害 ロシア関与の疑いと欧州委」という記事があります。

これは、フォン・デア・ライエン委員長は、欧州連合(EU)に加盟する東欧諸国と防衛態勢を協議する一環として、ブルガリアを訪れた際の事件ということです。

これに対する欧州議会の航空・海洋に対する脅威であるという「衛星干渉」に対するブリーフィングはこちらです。また、2025年12月5日には、ドイツが、ロシアの衛星干渉行為に対して警告をしています(記事)。

1.3 ハイブリッド戦争まわり

欧州ENISAの宇宙脅威状況 2025 (報告書 丸山さんの記事も発表までに確認しておきたいと思います。

あと、ハイブッド戦争絡みでは、「戦時モードの欧州「ロシア国境に壁を築け」 ハイブリッド攻撃に対抗」の記事がでています。また、法的なものとしては、欧州が、以下のような対応をしていることは、チェックしておきます。具体的には、

  • 委員会決定(ロシアの不安定化手段に関する委員会決定)(CFSP 2024/2643)(リンク)
  • 制限手段(restrictive measures)の範囲の拡大(2025年7月18日)(リンク)

があります。

2 日本の宇宙安全保障の進展

日本の宇宙安全保障の枠組をみていくことになります。

この点については、日本宇宙安全保障研究所の「我が国の国家安全保障における宇宙利用の現状と動向」という興味深いスライドがあります。このスライドの4ページに「宇宙(安全保障、防衛、商業宇宙活動、科学探査、技術開発等)に関連する我が国の政策および計画の枠組み」というスライドがありますが、私としては枠組としては、広く安全保障をとらえる立場もふまえて

というような図をえがくことができるかと思います。

でもって、今年の7月に宇宙領域防衛指針が公表されています。リンクとしては、こちらで、あと、図解もふんだんなスライドも参考になります。

これについて上のスライド以外に分析のページもできています。

などです。

構成としては「策定の趣旨」以下、

  • 我が国の防衛と宇宙領域における防衛能力強化の方向性
  • 具体的な取組の方向性と必要となる技術
  • 施策を下支えする総合的な取組

からできています。以下、簡単にみていくことにします。

2.1 策定の趣旨

国民の命と平和な暮らしを守るという防衛省・自衛隊の任務を全うするためには、防衛省・自衛隊が任務遂行上利用する衛星を防護するのは
当然のこと、国民生活の基盤たる政府・民間の宇宙利用も確保していくことが必要

このため、防衛省・自衛隊として、宇宙領域における防衛能力を早急に強化し、オールドメインにおける能力を増幅するとともに、いかなる状況においても宇宙空間の利用を確保することを目指していく

としています。そのうえで、

  • SDA(宇宙領域把握)能力の強化
  • 航空自衛隊の体制の強化(2020年度に宇宙作戦隊を新編し、2021年度に宇宙作戦群へと発展)
  • 航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊(仮称)」とする必要
  • 防衛力強化と経済力強化の好循環を実現(民間の革新的なサービスや技術を取り込みつつ、民間企業の関連技術への投資を後押し)

などが述べられています。

2.2 我が国の防衛と宇宙領域における防衛能力強化の方向性

ここでは、

  • 宇宙領域の重要性は極めて高い-我が国の防衛上必要な7つの機能・能力(「スタンド・オフ防衛能力」、「統合防空ミサイル防衛能力」、「無人アセット防衛能力」、「領域横断作戦能力」、「指揮統制・情報関連機能」、「機動展開能力・国民保護」及び「持続性・強靱性」)の強化
  • 宇宙領域における防衛能力を、他領域における能力と有機的に融合させつつ強化

として、このためのアプローチとして

  • 迅速かつ的確な戦況把握(宇宙領域を活用して、宇宙空間から移動目標をリアルタイムに探知・追尾する能力を構築)
  • 作戦の基盤となる衛星通信の確保(成層圏、地球低軌道から静止軌道に至る多層的で抗たん性の高い衛星通信ネットワークを構築し、それぞれをシームレスに利用できる通信環境を整備することが必要->堅牢かつ大容量通信が可能な地球低軌道の衛星コンステレーション、通信の安定性が高く広域通信が可能な静止軌道衛星等を組み合わせ)
  • 機能保証(Mission Assurance) (宇宙領域における防衛省・自衛隊の任務の継続を確保->SSA(宇宙状況把握)能力に加え、衛星の運用・利用状況、その意図や能力を把握するSDA(宇宙領域把握)能力を更に強化しつつ、衛星の防護に必要な能力も構築)
  • 相手方の指揮統制・情報通信等の妨げ

があげられています。

2.3 具体的な取組の方向性と必要となる技術

これについては、

  • (1)迅速かつ的確な戦況把握((ア)移動目標のリアルタイム探知・追尾、(イ)滑空段階のHGVのリアルタイム探知・追尾 、(ウ)AIやデジタルツインを用いた戦況の可視化 )
  • (2)作戦の基盤となる衛星通信の確保 ((ア)次期防衛通信衛星の整備 、(イ)AIを活用したオンボード処理と戦術通信、(ウ)同盟国・同志国と相互運用性を有する抗たん性の高い通信の確保、(エ)通信衛星コンステレーション等の商用サービス活用 )
  • (3) 機能保証(Mission Assurance)((ア)SDA能力の強化 、(イ)衛星の防護能力の構築 、(ウ)宇宙システム全体の抗たん性強化、(エ)即応的な対処・回復能力の向上)

となっています。なお、上のGPSに対する攻撃については

ロシアによるウクライナ侵略においては、GPS信号への妨害活動の活発化が確認される中、衛星測位信号への妨害に対応するため、GN
SS(全球測位衛星システム)受信機のみちびき公共専用信号への対応やマルチGNSS化、耐ジャミング技術の導入を推進していく

となっています。

2.4 施策を下支えする総合的な取組

これについては、

  • 防衛力と経済力の好循環の創出
  • 宇宙関連施策の推進体制の強化
  • 宇宙領域に係る人的基盤の強化
  • 宇宙領域に係る同盟国・同志国との連携強化

があげられています。

図示すると、以下のような感じでしょうか。

ということで、上の事件簿も含めて、一般的な講演の機会は、初めてになったりしますので、もし、興味がおありでしたら、宇宙法セミナー 「宇宙開発利用の現在地と広がる法曹の役割」(令和8年1月9日)への参加をお待ちしています。

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