電気通信事業法の検閲についての国会審議

電気通信事業法の検閲は、憲法で議論されている「検閲」の概念とどう違うのかという点については、私のブログ

で触れていたのですが、国会で、これらの概念についての質疑応答がなされているのに気がついたので、すこしまとめておきます。

1 令和7年2月7日における質問と回答

第217回衆議院(令和7年2月7日)における原口一博議員の質問主意書に対する内閣答弁書(答弁第七号)ということになります。リンクは、これです。

質問事項

質問事項としては

YouTube等の「媒介相当電気通信役務」を提供する電気通信事業者(以下「動画サービス提供事業者」という。)が、ワクチンなど特定のキーワードを含む動画投稿を利用者が行った場合にその動画データを削除する又はそのアカウントを利用禁止とする(いわゆる「BAN」)場合がある。また、特定のキーワードを含んだリアルタイム配信を行ったアカウントを配信後にBANする場合もある。特にワクチンに対する否定的な発言である場合は、その内容が厚生労働省のデータや論文の紹介であっても、動画サービス提供事業者がこれらの行為を行っている。 こうしたことも踏まえ、次の事項について政府に対し質問する。

ということで、それぞれ電気通信事業法の「検閲」に該当するのではないかという質問です。その他、電気通信事業法6条、憲法21条1項、独禁法の優越的地位の濫用との関係を質問しています。

回答

電気通信事業法の「検閲」に該当するのではないかという質問について具体的な回答としては

電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第三条で禁止されている検閲については、平成三十年五月十七日の衆議院総務委員会において、渡辺総務省総合通信基盤局長(当時)が「国その他の公の機関が強権的にある表現又はそれを通じて表現される思想の内容を調べることとされているところでございます。」と答弁しているところ、お尋ねのような行為がこれに該当するか否かは、個別具体的な事情により判断されることとなるため、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である。

となっています。

あと、電気通信事業法6条については、

電気通信事業法第六条で禁止されている不当な差別的取扱いとは、一般に、人種、性別、社会的身分、門地等により、合理的な理由なく特定の者に差別的待遇を行うことを指すと考えており、お尋ねのような行為がこれに該当するか否かは、個別具体的な事情により判断されることとなるため、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である。

とされています。また、憲法21条1項については、最高裁大法廷判決(三菱樹脂事件)でもって、

昭和四十八年十二月十二日最高裁判所大法廷判決において、「憲法の右各規定は、同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。」との判示がされていると承知している。

としています。優越的地位の濫用については

個別具体的な事情により判断されることとなるため、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である。

問を回答がなされています。

プラットフォームのアカウントの停止について、検閲(事業法3条)、不当な差別的取扱の禁止(事業法6条)、表現の自由(憲法21条1項)、優越的地位の濫用の規定との関係の解釈が示されています。それぞれ、穏当な回答ということができるだろうと思います。

この回答を見たときに、逐条解説の解釈は、

思想の内容を調べることとされている

か、どうか、一瞬、疑問に思ったのですが、2019年のブログで、逐条解説のとおりであったのを確認しました。

2 平成30年5月17日の衆議院総務委員会

上の回答ででた平成30年5月17日の衆議院総務委員会をみていきます。これについては、リンクは、こちらです。

議論のテーマとしては、

海賊版防止対策について少々議論がございました。このことに関連いたしましてですけれども、漫画村、アニチューブ、ミオミオなどを明示をして、これは何とかしなければいけない、こういう話でございました。

立憲民主党の山花郁夫の質問に関する答弁になります。質問事項は、

留意しなければいけないのは、例えば、最終的にどういう形で検討されるのかはまだこれからということなんでしょうけれども、例えばブロッキングみたいなケースだと、ユーザーの側がどこにアクセスしているのかというのを探知しないと、これはできないはずですので、そうすると、いわゆる検閲ということにひっかかってきたりとか、通信の秘密ということにかかわることではないかと思います。

何か先にこういった結論がいいのだというのを出して、後から実は検閲という概念はこうですみたいなことをされるとちょっとかなわないので、現時点で総務省として、通信の秘密等の関係で、例えば電気通信事業法三条について、検閲はしてはならないということになっていると思いますけれども、どういう概念で、これはしてはならないというふうに認識されているんでしょうか。

という質問に対して、渡辺政府参考人は、

電気通信事業法第三条では、電気通信事業者の取扱いに関する通信は、検閲してはならないと規定されているところでございます。この検閲とは、国その他の公の機関が強権的にある表現又はそれを通じて表現される思想の内容を調べることとされているところでございます。

と答えています。これに対して

山花委員は、

ぜひ、今後検討されるということですので、そういうところに当たらないような形でやっていただきたいと思います。

また、こういった海賊版サイトというのは、趣味で愉快犯的にやっているということではなくて、バナー広告など、これが収入源になるから広がっているわけであって、広告規制であるとか、要するに、より制限的でないような方法で、実効性のある形を検討していただきたいと思いますし、とめるとかなんとかというのは、本当に最後の最後の手段だと思っておりますので、あらかじめ、こういうことは行政としてはやっていけないという類型をちゃんと置いた上で、後々、批判に耐え得るような制度設計をしていただきたいということを要望させていただきたいと思います。

と回答して、終了ということでした。当時ブロッキングと「検閲」という概念は、別に、送信自体が妨げられるわけではないので、特に議論されるものでもないでしょう、という感じだたったように思います。その意味で、あまり重要な答弁とはおもわなかったところですが、今回、プラットフォームによるコンテンツのモデレーションの文脈でふたたび概念がでてきたのは、興味深いところです。

 

 

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