総務省が、2026年4月24日にの有識者会議の報告書案をまとめて公表しました。公表された報告書は、こちら。
新聞報道として
などがあります。
でもって、実際にみていきます。同報告書の構成は、
- 中間論点整理の概要
- 必要性・有効性
- 許容性
- 実施根拠・妥当性
- 諸外国の状況
- 今後の方向性
からなりたっています。
1 報告書を読む
1.1中間論点整理の概要(令和7年9月公表)
ここにおいては、
ブロッキングについては、「通信の秘密」や「知る自由・表現の自由」に抵触しうる対策である。
ことから、
他の権利制限的ではない手段が十分に尽くされたといえるか検証するとともに、オンラインカジノ固有の権利侵害の内実を突き詰めた上で、ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡しているかを検証していくべきである。
としています。そして、
①他の権利制限的ではない手段が十分に尽くされていること、及び対策として有効性があること、②ブロッキングにより得られる利益と失われる利益が均衡していることが認められる場合、ブロッキ
ングの実施が可能となる。実施にあたっては、ギャンブル規制における位置づけや法的安定性の観点から、法解釈に基づく事業者の自主的取組として行うのは適当でなく、法的担保が必要である
として
遮断義務付け主体、遮断対象、実体要件、手続要件等を具体的に検討していくべきである。
とされていました。
1.2 必要性・有効性
これは、2.1. 必要性(ブロッキング以外の対策が尽くされたか)と2.2. 有効性(対策としてのブロッキングは有効か)にわけて整理されています。
必要性については、中間論点整理(概要)(2.1.1)、構成員の主な意見(中間論点整理以降のもの)(2.1.2)、関係省庁・関係事業者の報告(2.1.3-周知啓発・取締・情報削除等・外国政府への要請・支払抑止・スポーツ健全性)、効果検証(2.1.4)、検討(2.1.5)の構成で論じられています。
検討のところにおいては、取締り、情報削除、ジオブロッキング、支払抑止について特に検討して、
これまでの官民による包括的な対策により、誘導投稿等が大幅に減少するなど、一定の効果が認められるが、違法性の認識等については一層の向上が求められる。
としていて、結局、
基本法改正の施行から一定の期間を経た適切な時期において
効果を十分に検証する必要がある、としています。
特に、これらの検討においてCDNの役割や判決についての論及が目立ったように思います。この案件は、クラウドフレア事件と思われます(東京地裁令和7年11月19日判決)。これについて、松尾先生のすぐれた解説があります。「第365号 コンテンツ・デリバリー・ネットワークサービス(CDNサービス)を提供する事業者が、出版社に対して漫画村運営者の著作権侵害行為の幇助を理由に損害賠償を命じられた事案(クラウドフレア事件) ~東京地裁令和7年11月19日判決~」 個人的には、サービスについての相当な注意義務と、違法侵害への幇助に気がついたあとの防止義務という観点から読むべき判決(結果責任が、行為責任を反映している)と考えていたりします。
有効性(対策としてのブロッキングは有効か)については、 中間論点整理(概要)(2.2.1.)、構成員の主な意見(中間論点整理以降のもの)(2.2.2. )、 参考人の主な意見(2.2.3.)、 検討(2.2.4.)の構成で論じられています。
検討のところにおいては、
- 回避策により、ISP の DNS サーバ等を迂回することが可能であるため、仮にブロッキングを実施したとしても、その対策には一定の限界があり、特に、オンラインカジノに係るいわゆるヘビーユーザに対しては、効果を期待することができないとの指摘がある。
- 若年層やカジュアルユーザを保護する観点(オンラインカジノに係る情報に接触する機会を減らすことが可能かどうか)から、検討すべきであること
- 児童ポルノブロッキングは、現在も安定的に運用されていることが認められ、当該実績を踏まえ通信事業者からもブロッキングが引き続き有効な手法であるとの見解が示されている。他方で、今後の技術動向やインターネット利用環境の変化に留意すべきであること
などを検討した上で検証を行う上でも、当該時点におけるインターネット利用環境等に十分に留意すべきであるという留保のもと
現在のインターネット利用環境等に照らせば、違法オンラインカジノから若年層やカジュアルユーザを保護する観点から、対策としての有効性は否定できない。
1.3 許容性(ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するか)
許容性については、中間論点整理(概要)(3.1)、構成員の主な意見(中間論点整理以降のもの)(3.2)、参考人の主な意見(3.3―ギャンブル等依存症の実態・スポーツ健全性)、検討(3.4)の構成で論じられています。
具体的な議論について、以下のような表にまとめてみました。
| 論点 | 曽我部座長(第12回)の立場 ギャンブル等依存症対策を主目的とすべき |
その他構成員の意見 |
|---|---|---|
| 「勤労の美風」(賭博罪の保護法益) | 抽象的すぎてブロッキングの目的の柱とするには不十分。法益として独立した正当化根拠にならない。 | N/A |
| 「国富の流出」 | 犯罪の深刻さを示す要素ではあるが、オンラインカジノに限られず、独立の目的とすることは難しい。 | 田中構成員は、犯罪収益による国富流出は通常の商取引と異なり、1〜6兆円規模の損害として独自の意義を持つと主張(第12回)。鎮目構成員は「違法な行為による」等の限定を付すことで副次的目的に位置づけることには賛同(第13回)。 |
| 「ギャンブル等依存症対策」を主目的とすること | 依存症による弊害は人格・人生そのものを奪い得るものであり、単なる財産的損失を超える。これを柱に掲げるほかない。 | (消極論からの意見)
①森構成員:合法ギャンブルでも依存症は生じており放置されている。破産法上の免責拒否事由等の扱いをみても、社会が通信の秘密に匹敵する問題と認識しているか疑問(第13回)。 |
| スポーツ健全性・その他副次目的 | (直接の言及なし。報告書3.4では加味すべき要素として位置づけ。) | 山口構成員:ブロッキングの目的として主としてギャンブル等依存症対策を掲げつつ、国富流出防止・スポーツ健全性も踏まえることに賛成(第13回)。前村構成員:違法オンラインカジノのアルゴリズムの特殊性を強調し、公営競技等との本質的差異を副次的目的の根拠として補強すべきと主張(第13回)。 |
| 法益権衡の方法論 | 比較衡量の具体的方法は本格的検討で論じるべき必要論点(第12回)。 | 橋爪座長代理:比較衡量は具体的被害の大小を検討するのが当然であり、抽象的法益価値の比較だけでは不十分。ただし方法論を本報告書に明記すべきではない(第13回)。
森構成員:通信の秘密の法益権衡は従来、個別具体的危険性を考慮せず広く保障する形で行われてきた。その枠組みを維持すべき(第13回)。 |
個人的には、海外の(日本法からみた)違法なオンラインカジノであるという観点が軽視されているように思うところです。「通信の秘密」聖域論については、もううんざりという感じです。
検討のところについては、結局、ブロッキングを実施する場合、その「目的」については、
- 主として違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の予防やこれを生み出す違法オンラインカジノの流通・蔓延防止とするのが適当であり、加えて、違法な行為による国富の流出防止・スポーツ健全性の確保の観点も踏まえる必要がある。
- そして、許容性(ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するか)を具体的に検討するに当たっては、違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の危険性や違法オンラインカジノの実態を踏まえる必要がある
とさています。
1.4. 実施根拠・妥当性
実施根拠・妥当性については、実施根拠(4.1―中間論点整理(概要)・検討)、妥当性(4.2―中間論点整理(概要)・構成員の主な意見(中間論点整理以降のもの)・検討)の構成で論じられています。
これについては、
今後、ブロッキングを実施すべき状況にあるといえる場合は、ブロッキングを実施している諸外国法制を参考にしつつ、ブロッキングの実効性を確保するとともに、通信の秘密や知る自由等への制約を必要最小限にする観点から、遮断義務付け主体、遮断対象、実体要件、手続要件等を具体的に検討していくべきである。
特に、遮断の義務付けを実効的に確保する観点から、公的機関の関与を適切に確保する必要があると考えられることを見据え、関係省庁において具体的な制度設計を検討していくことが考えられる。
とされています。
2 アンブレラとしての「通信の秘密」
2.1 憲法・制定法における「通信の秘密」と違法オンラインカジノの通信
この報告書についても、当然のように違法オンラインカジノへのアクセスを通信当事者以外において困難にすることは、「通信の秘密」に抵触しうるとしています。例えば、
アクセス抑止策の一手段であるブロッキングについては、「通信の秘密」や「知る自由・表現の自由」に抵触しうる対策である。(3頁)
しかしながら、憲法・制定法において考えるときに必ずしもそのようにいえるのか、ということは、誰もきちんと論じていないのです。
私のブログでは、
- 憲法の「通信の秘密」は、電気通信事業者に適用されるのか-総務省「情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会報告書」(1999) (駒澤綜合法律事務所ブログ)
- 「公然性ある通信」再訪-「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会- 報告書」(1998年)を読む(駒澤綜合法律事務所ブログ)
- 宍戸先生より、憲法の「通信の秘密」規定のプロバイダへの適用についてコメントをいただきました。
- 携帯4社からの外部への情報提供と「通信の秘密」(2025年12月)
- 「信書の秘密」の数奇な運命、そして、「通信の秘密」-「裸の王様」としての「通秘論」
などでふれています。
ここで議論されているのは、海外の不特定多数の者への通信についての受信者のアクセスの制限になります。受信者が、そのアクセスの過程で、そのサイトにアクセスすることを了知して、そのアクセスを遮断する行為について考えます。
2.1.1 憲法21条2項について
この場合、解釈上の論点として
- 不特定多数の者への通信は、そもそも、秘密の通信ではないので、「憲法の」通信の秘密の保護の対象ではないのではないか
- 海外発信者による通信であっても、その通信が日本の国内の利益と比較して、どの程度保護されるのか
という問題があるだろうと考えています。
1の論点については、「信書の秘密」の数奇な運命、そして、「通信の秘密」-「裸の王様」としての「通秘論」 で示唆したところでもありますが、ここでいう「通信」は、そもそも「秘密足るべき通信」であることが要件なのではないかということがいえます。「信書」の通信版みたいなイメージです。
この点について 渋谷秀樹 「憲法(第3版)」は、
昨今のインターネットの急速な普及に伴い,通信設備を使用して,不特定多数に対して情報を発信することも急速に普及している。憲法21条2項後段が想定する通信は,あくまで特定人に対する情報の発信である。
としています。
なお、芦部・高橋「憲法」/村上 尚文、清野 憲一「憲法逐条注解〔第2版〕」/高橋和之「立憲主義と日本国憲法〔第5版〕」/加藤一彦「憲法〔第四版〕」は、この論点について触れていないです。
2の論点については、日本において、具体的な損害が発生しているのに、何故に海外の発信(しかも、もっぱら経済的なそれ)を後生大事にしなければならないというのかが、よくわからないということだろうと思います。
このような観点は、日本での議論は、「人権の国際的な性格」などの表現で、いわれることから、でてこない観点だと思いますが、実質的には、考慮されるべきものだろうと思います。
自説としては、上の渋谷説・憲法の地理的適用範囲の観点から、オンラインギャンブリングのブロッキングの問題は、そもそも憲法21条2項の「通信の秘密」の適用されるべき問題ではないということになります。その上に立法的な対応をなす場合には、立法裁量の問題として、なんら問題はないはずだろうと考えます。憲法の規定において何が、立法裁量によっても侵せない「権利」なのかという観点なしに議論されているという印象があります。その意味で、伝達される「意思の内容」のみに限って、保護するというスタンスのほうが 、憲法の解釈論としては、望ましいのではないかという感じがします。
議論の方向性としても、立法によって解決されるのであれば、立法裁量として許容されるのか、という論点になるものと考えられます。
なお、プロバイダーに通信の行き先を確認することを命じるので、憲法の通信の秘密の侵害であるということがいわれるのですが、制度として、法制度で定めるのであれば、それが立法裁量を越えるとも思えないところです。
2.1.2 制定法(電気通信事業法)との関係について
ア) 4条(秘密の保護)について
これについて、一般に電気通信事業法4条(秘密の保護)が引用されて、ブロッキングは、「通信の秘密」を侵害するといわれる(場合によっては、同法4条1項が引用される)ことがあるのですが、「信書の秘密」の数奇な運命、そして、「通信の秘密」-「裸の王様」としての「通秘論」 で示唆したところでもありますが、ここでいう4条1項は「通信」は、そもそも「秘密足るべき通信」であることが要件であり、公然性ある通信には、同条の適用はないということがいえます。
逐条解説においても、
「秘密」とは、一般に知られていない事実であって、他人に知られていないことにつき本人が相当の利益を有すると認められる事実をいう。本人が秘密と考えるもの(主観的秘密)が直ちに法的に保護に値するとはいえず、一般人が通常秘密に使用と銑蓋然性(客観的秘密)があることが必要である
とされ、
他方、電子掲示板やホームページに掲載された情報など不特定者に向けて表示されることを目的とした通信の内容は、発信者がそれ自体を秘密としていないと解すべきであり、本条の保護の対象外である。
とさているところです。(逐条解説(改訂版)35頁 、電気通信振興会,2019)
オンラインカジノへのアクセスについて考えていれば、逐条解説の解釈を前提とする限り、電気通信事業法4条1項の「通信の秘密」は適用されない ということになります。
宛先情報の性質論
DNSブロッキングが介入するのは通信の内容ではなく宛先(ドメイン名の名前解決)です。宛先情報が「秘密」として保護されるかという論点は従来から争いがあり、特に違法サイトへのアクセスという宛先については、秘密性の実質が乏しいという議論が成り立ちうることばいうまでもありません。
比較法的視点
フランスのANJは、オンラインカジノブロッキングは公益保護の観点から実施されるものであり通信の秘密を侵害しないとの見解を明示しており、これはある意味でこの論点に対する一つの答えであるといえること
を指摘しうることになります。
イ) 役務提供義務について
「公然性ある通信」再訪-「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会- 報告書」(1998年)を読む のブログにおいて、事業法第4条第1項以外には、第3条(検閲の禁止)、第7条(利用の公平)及び第34条(役務提供義務)(条文は当時)について検討する必要が述べられています。むしろ、解釈論としてはオンラインカジノブロッキングは、電気通信事業法との関係では、役務提供義務との関係をも整理すべきであるということもいえるのだろうと考えます。
役務提供義務は、現在は、25条です。
(提供義務)
第25条 第一号基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者は、正当な理由がなければ、その業務区域における当該第一号基礎的電気通信役務の提供を拒んではならない。
2 第二号基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者は、当該第二号基礎的電気通信役務の提供の相手方と料金その他の提供条件について別段の合意がある場合を除き、正当な理由がなければ、その業務区域における届出契約約款に定める料金その他の提供条件による当該第二号基礎的電気通信役務の提供を拒んではならない。
3 指定電気通信役務を提供する電気通信事業者は、当該指定電気通信役務の提供の相手方と料金その他の提供条件について別段の合意がある場合を除き、正当な理由がなければ、その業務区域における保障契約約款に定める料金その他の提供条件による当該指定電気通信役務の提供を拒んではならない。
となっています。ここで、2022年の電気通信事業法改正により、光ファイバを用いたブロードバンドサービスが第二号基礎的電気通信役務として新たに位置づけられています。これにより、固定ブロードバンド(光回線)についてはユニバーサルサービス義務の枠組みに取り込まれています。そうだとすると、第二号基礎的電気通信役務として指定されたブロードバンド接続は、あまねく提供されるべき役務であり、特定サイトへのアクセスを遮断することは、役務の完全な提供を妨げるものとして、提供義務との緊張関係が生じるという見方が可能です。この立場からは、ブロッキングには少なくとも法律上の明示的根拠が必要という結論が導かれることになるだろうと考えます。
もっとも、これに対しては、「正当な理由がなければ、」という部分について、より広範囲な解釈をとるということができるのであれば、正当な理由があるといえるかもしれません。正当な理由については、
たとえば、天災、地変、事故等により電気通信設備に故障を生じ役務提供が不能の場合、料金滞納者に対する場合、その申込みを承諾することにより他の利用者に著しい不便をもたらす場合、正常な企業努力にもかかわらず、需要に対して速やかに応ずることができない場合等である。
とされています。
もっとも、これに関しては、脅迫電報事件(大阪地判平成16年7月7日・判時1882号87頁)との衝突という論点を検討する必要があります。この事件については、
事案の概要
東西NTTが脅迫的内容の電報の受付・配達を差し止める条理上の作為義務を負うか否かが争われた事案です。電報の受信者側が、脅迫的内容の電報を送り続けられていることを理由に、NTTに対してその受付・配達の差し止めを求めたものです。
判旨の核心
裁判所は請求を認めず、以下のように判示しました。
「電気通信事業者は、利用者間で通信が行われるに際し、あくまでも物理的な通信伝達の媒体ないし手段として、発信者から発信された通信内容をそのまま受信者に伝達することが、その提供する役務の内容として予定されている」
そして、差し止めは「公共的電気通信事業者としての職務の性質からして許されない違法行為」であると断じました。
ということで、状況をみるとかいっていないで、結局、立法論による解決が望ましいだろうと考えるわけですが、それでも種々の論点があります。
2.2 アンブレラとしての「通信の秘密」
このように個々の解釈論を見ていくときに、有識者委員会報告書や新聞報道ででている「通信の秘密」という用語は、いわゆるインターネットの接続プロバイダーに「導管」以外の役割はさせないぞ、負担はかけさせないという政策的な立場を示す防御のための「傘」ということができると思います。
冷静にみるときには、ブロッキングの議論で、「通信の秘密」のあとに、もし、憲法21条や電気通信事業法4条を引いているのを見かけたら、法律の解釈としては、大いに?がつくということはしっていていいかと思います。その意味で、「通信の秘密」論は、国際法の議論をしらないで、声を張り上げる憲法9条の議論と同レベルに陥っているいうのが個人的な認識になります。
この図は、最小コスト回避者たるISPが積極的な役割を果たすべきという要請に対して、そのような負担を避けたい方面が、「通信の秘密」という神話をたてて、その要請に対してこれを否定しているというコンセプトを示しています。この神話は、実は、制定法の解釈論としては、あまり根拠がないのですが、メディア等では、インパクトが強いという性格をもっていることを示しています。
3 立法論における論点
以下、立法論の論点をまとめてみます。
2.2.1 基本的な枠組の論点
これについては、行政命令モデル/司法審査モデル/ハイブリッドモデルが想定されます。報告書は「公的機関の関与を適切に確保する必要がある」と述べつつ、具体的な命令主体を明示していないのですが、この部分は、この論点を意識しているものだとかんがえられるでしょう。
行政命令モデル
構造
規制当局(例:総務大臣・警察庁長官)が違法オンラインカジノサイトを認定し、ISPに対してブロッキングを命じる仕組みです。フランス(ANJ)・スイス(ESBK)がこのモデルを採用しています。
ということでスイスのモデルを見てみます。
スイスモデル(claudeの解説)
Ⅰ 法的基盤
スイスのブロッキング制度の根拠法は、2019年1月1日施行の連邦賭博法(Bundesgesetz über Geldspiele/BGS、通称ゲーミングアクト)です。同法は2018年の国民投票において賛成多数で承認されており、その際「通信の秘密」および「インターネットの自由」が主要争点となりました。国民が直接民主制によってブロッキング制度を授権したという点に、スイスモデルの正統性根拠の特殊性があります。
Ⅱ 規制機関の二元構造
スイスのブロッキング制度は、規制対象の種別に応じて二つの機関が並立しています。
ESBK(Eidgenössische Spielbankenkommission/連邦カジノ委員会)がオンラインカジノゲームを所管し、Gespa(スイスギャンブル監督局)**が宝くじ・スポーツベッティング・スキルゲームを所管します。両機関が連携してブラックリストを管理・更新しており、2026年2月時点でブロッキング対象ドメイン数は約3,000件に達しています。
Ⅲ 手続の構造
第一段階:違反サイトの特定
EBSKまたはGespaが、スイスのライセンスを持たない違法オンラインギャンブルサイトを特定します。対象となるのは、①スイス国内でライセンスなく営業する事業者、②海外に拠点を置く事業者、③所在地を隠匿している事業者です。
第二段階:警告と自主対応の機会付与
EBSKは特定した違法事業者に対して警告書(warning letter)を送付し、スイスユーザーへのアクセス遮断(ジオブロッキング)を自主的に実施するよう求めます。事業者が自らスイス国内からのアクセスを遮断した場合は、ブラックリストから除外される仕組みとなっています。
第三段階:ブラックリストへの掲載と官報公示
自主対応がなされない場合、EBSKまたはGespaはドメイン名をブラックリストに掲載します。ブラックリストの初版および変更内容は官報(Federal Gazette)における一般処分(general ruling)の形式で公示されます。この「一般処分」という法形式が、後述の司法審査との関係で重要な意味を持ちます。
第四段階:ISPによるDNSブロッキングの実施
スイス国内のISPは、ブラックリストに掲載されたドメインへのアクセスをDNSブロッキングにより技術的に遮断する法的義務を負います。ISPはEBSKのメールアラートサービスに登録することで、ブラックリストの更新を自動通知されます。
Ⅳ 技術的手法の選択
報告書も指摘するとおり、スイスはDPIではなくDNSブロッキングを採用しています。その理由として以下が挙げられています。
- VPNによる回避は可能だが、合法サイトへ多数の利用者を誘導する効果がある
- DNSブロッキングはオーバーブロッキングのリスクが低い
- DPIは通信の秘密の侵害の懸念がある手法として裁判でも言及された
Ⅴ ライセンス制度との一体性
スイスモデルの最大の特徴は、ブロッキング制度が免許制度と一体として設計されている点です。オンラインカジノを運営できるのは、既存の陸上カジノのコンセッション(免許)を持つ事業者がオンライン延長を取得した場合に限られます。新規のオンライン専業事業者への免許付与は認められていません。
これにより、ブロッキングの対象は「ライセンスを持たない事業者」という明確な基準で画されており、違法性の認定が相対的に容易です。この点は、賭博罪の構成要件該当性という刑事法的判断が必要な日本の文脈とは構造的に異なります。
Ⅵ 利用者の法的地位
スイスのゲーミングアクト上、スイス国内の利用者が無許可のオンラインギャンブルプラットフォームで賭博を行っても、刑事責任は問われません。ただし自己責任で行うこととされています。
この点は日本の構造と根本的に異なります。日本では利用者自身が賭博罪の主体となり得るのに対し、スイスでは利用者の刑事責任を問わない設計になっています。これは許容性(法益権衡)の議論にも影響し、日本の検討会で「利用者は専らの被害者ではない」(橋爪座長代理)という指摘が出た背景と好対照をなします。
Ⅶ 支払抑止の不採用
立法過程で支払抑止(payment blocking)の導入も議論されましたが、議会によって採択されず、現行法上は実施されていません。これは日本の報告書が支払抑止を包括的対策の一環として推進していることとの相違点です。
Ⅷ 日本への示唆と限界
スイスモデルから日本の立法論が得られる示唆と、そのまま移植できない限界を整理します。
示唆として、①官報公示という透明性確保の手法、②事業者への自主対応機会の事前付与、③DNSブロッキングの技術的選択、④免許制度との一体設計という発想が参考になります。
限界として、①スイスは国民投票という直接民主制による授権という正統性根拠を持つこと、②利用者の刑事責任を問わない設計であるため法益権衡の構造が異なること、③「ライセンスなし」という明確な違法性基準が日本の賭博罪の構成要件とは異なること、④EBSKという独立規制機関の存在が日本の行政組織法制上は容易に移植できないこと、が挙げられます。
特に命令主体の問題との関係では、スイスモデルは実質的に**行政機関(ESBK)による行政処分(一般処分)**としてブロッキングを命じる構造であり、事後的な行政不服申立・行政訴訟による司法審査が担保されています。日本の文脈でこのモデルを採用する場合、脅迫電報事件の論理および憲法21条との関係で、同等の司法審査の実効性が確保されるかが最大の検討課題となります。
——–
司法命令モデル
構造
裁判所がブロッキング命令を発する仕組みです。著作権侵害に対するブロッキング命令として、EU著作権指令(2019年)に基づくイギリス・EU各国の裁判所命令モデルがこれに近い構造を持ちます。
論拠
第一に、憲法適合性の確保です。通信の秘密・表現の自由という基本的人権への制約に対して、独立した司法機関による審査を介在させることで、適正手続の要請に応えることができます。
第二に、脅迫電報事件との整合性です。大阪地判平成16年の論理、すなわち電気通信事業者が役務提供内容に介入することへの強い抑制傾向からすれば、裁判所命令という形式が、ISPの法的義務の根拠として最も明確です。
第三に、個別審査の精度です。行政による一般的認定よりも、個別事案における違法性・比例性の審査が精緻に行われ、オーバーブロッキングのリスクを低減できます。
問題点
第一に、迅速性の欠如です。違法サイトの流動性に対して通常の訴訟手続は対応できません。仮処分命令(民事保全法)の活用が考えられますが、疎明の程度・審理期間の問題が残ります。
第二に、申立適格の問題です。誰が申立人となるかという問題があります。国(行政機関)が申立人となる場合、実質的に行政の判断が先行するという構造は変わりません。被害者・権利者が申立人となる場合、オンラインカジノ規制の文脈では被害者特定が困難です。
第三に、大量案件への対応です。フランスでは年間1337件のブロッキングが実施されており、これを全件司法審査とすることは裁判所のリソース上困難です。
ハイブリッドモデル
実際の立法論としては、両モデルを組み合わせるハイブリッドアプローチが最も現実的です。その設計には複数のバリエーションが考えられます。
バリエーション① 行政命令+司法的事後審査
行政機関がブロッキングを命じ、異議申立は行政不服申立または取消訴訟によるモデルです。フランスモデルに近いですが、日本の行政事件訴訟法の執行停止要件(重大な損害・緊急の必要性)との関係で、実効的な事後救済が担保されるかが問題です。
バリエーション② 行政認定+裁判所承認
行政機関が違法サイトを認定した上で、裁判所の承認(決定)を得てブロッキング命令を発するモデルです。司法の関与を担保しつつ、行政の専門性も活用できます。ただし手続の迅速性が損なわれる可能性があります。
バリエーション③ 緊急行政命令+期間制限付き司法審査
行政機関が一定期間(例:30日)の暫定的ブロッキングを命じ、その期間内に司法審査を受けなければ失効するモデルです。迅速性と司法審査の双方を確保する設計ですが、立法技術上の精緻さが要求されます。
Claudeばここまで。
—
2.2.2 その他の論点
具体的な立法における論点としては、以下の事項をあげることができるでしょう。
Ⅰ 遮断義務付けの主体
論点① 義務付けの名宛人
ISP全般を対象とするか、第二号基礎的電気通信役務提供者に限定するか、あるいは一定規模以上の事業者に絞るかという問題です。規模要件を設ける場合、その基準(契約者数・トラフィック量等)の設定が技術的・競争政策的観点から問題となります。
論点② CDN事業者・アプリストアの射程
報告書が指摘するように、CDN事業者を義務付けの対象に含めるかは独立した論点です。CDN事業者は国内にキャッシュサーバを置きつつも、電気通信事業者としての登録・届出を行っていないケースがあり、電気通信事業法上の義務付けの射程が及ぶかという問題があります。
Ⅱ 遮断対象
論点③ 対象サイトの特定方法
遮断対象をURLベースとするか、ドメインベースとするか、IPアドレスベースとするかによって技術的手法と過剰遮断(オーバーブロッキング)のリスクが異なります。
論点④ リストの作成・管理主体
規制当局(総務省・警察庁)が作成するか、司法審査を経た裁判所命令によるか、あるいは行政機関が命令しISP側にリスト管理義務を課すかという問題です。フランスモデル(ANJによる行政命令)とドイツの改正法案モデルを比較検討する必要があります。
論点⑤ リストの公表と透明性
遮断リストを公表すると回避を容易にするという問題がある一方、非公表では適正手続(デュープロセス)の観点から問題が生じます。この緊張関係の解決方法として、裁判所や第三者機関によるシールド型管理が考えられます。
論点⑥ CDNのキャッシュサーバへの対処
違法オンラインカジノのコンテンツが国内のキャッシュサーバに存在する場合、遮断対象はオリジンサーバのドメインなのかキャッシュサーバのIPアドレスなのかという問題です。後者を対象とすると正当なコンテンツへの過剰遮断リスクが極めて高くなります。
Ⅲ 実体要件
論点⑦ 遮断対象の違法性の認定基準
「違法オンラインカジノ」の認定を誰がどのような基準・手続で行うかという問題です。賭博罪の構成要件該当性(刑法185条・186条)を基準とするか、ギャンブル等依存症対策基本法上の概念を援用するかで射程が変わります。
論点⑧ 補充性要件の明文化
他の手段(情報削除・ジオブロッキング要請・支払抑止等)が尽くされたことを実体要件として明文化するか、それとも行政裁量に委ねるかという問題です。
論点⑨ オーバーブロッキングの防止要件
ブロッキングにより正当なコンテンツが遮断されるリスクへの対処として、比例原則の観点から遮断の精度・範囲についての実体要件を法律上どう規定するかという問題です。
Ⅳ 手続要件
論点⑩ 事前手続と事後救済
遮断命令の前にサイト運営者・ホスティング事業者への通知・削除要請を義務付けるかという問題です(フランスは5日間の猶予を設けています)。また、遮断された側の異議申立・不服申立の手続をどう設計するかという問題も生じます。
論点⑪ 司法審査の要否
行政機関のみの判断でブロッキングを命じることを認めるか、裁判所の事前許可または事後審査を必要とするかという問題です。通信の秘密・表現の自由との関係では、司法審査の組み込みが合憲性確保の観点から重要な論点となります。
論点⑫ ISPへの手続保障
義務付けられるISP側の手続的権利(意見陳述・不服申立等)をどう保障するかという問題です。特に中小ISPへの経済的負担の問題と連動します。
Ⅴ 通信の秘密・憲法適合性
論点⑬ 通信の秘密との関係の立法的解決
脅迫電報事件の論理および電気通信事業法第25条との関係で、ブロッキング実施を適法化するための条文上の手当てをどう設計するかという問題です。緊急避難法理に依存せず、違法コンテンツへのアクセスには通信の秘密の保護が及ばない旨を明示するか、あるいは法律上の根拠による制限として構成するかという選択があります。
論点⑭ 知る自由・表現の自由との均衡
過剰遮断が生じた場合の正当なコンテンツ受信者の知る自由の侵害をどう立法的に手当てするかという問題です。補償規定・被害回復手続の要否が問われます。
Ⅵ 実施・費用負担
論点⑮ 費用負担の配分
ブロッキングの実装・運用コストをISPが負担するか、国が補填するか、あるいは違法サイト運営者への求償を制度化するかという問題です。特に中小ISPへの影響が大きく、競争政策上も重要な論点です。
論点⑯ 技術的中立性
法律上の義務をDNSブロッキングに限定するか、DPIを含む他の手法も許容するかという問題です。スイスでは国民投票の過程でDPIの通信の秘密侵害が論点となった経緯があり、技術手法の選択自体を立法レベルで規律する必要があるかが問われます。
Ⅶ 他の法制との整合性
論点⑰ 他の違法有害情報規制との関係
報告書自体が「他の違法有害情報に係るアクセス抑止の在り方を規定するものではない」と明記していますが、立法化の際には児童ポルノブロッキング(現行の民間自主規制)、海賊版対策との整合性をどう確保するかという問題が生じます。オンラインカジノ特化型の個別立法とするか、一般的なブロッキング授権法制の一環として位置づけるかの選択が迫られます。
論点⑱ 国際的管轄と外国事業者への執行
海外に拠点を置くオンラインカジノ運営者・CDN事業者に対する立法の域外適用をどう設計するか、また外国政府との執行協力をどう法制化するかという問題です。






